重くなった空気を振り払うように、鈴木がわざとらしく明るい声を出した。

「そーそー! 道は一つじゃないって! 俺なんか、もうすぐ社会人っすよ? 文学とは全然関係ない、地元のメーカーだけど!」
「へえ、鈴木、就職決まったんだ。おめでとう」

 佐藤が、穏やかに祝福する。

「おう! まあ、第一志望じゃなかったけどな! でも、安定が一番だろ!」
「お前、高校ん時からそればっかだな」

 伊藤が、呆れたように言う。

「安定、安定って。つまんねーの」
「うるせーな! 伊藤こそ、専門で映像なんて不安定な道選んで、大丈夫なのかよ?」
「まあ、なんとかなるだろ。好きなことだし」

 伊藤は、少し照れたように笑った。

「今はまだバイトしながらだけど、結構面白いぜ。いつか自分の作品、撮りたいしな」
「いいねえ、夢があって」

 佐藤が微笑む。

「私は、とりあえず大学院目指そうかなって。もう少し、ちゃんと文学研究したいなって思って」

 それぞれの現在が語られる。就職、専門学校、大学院。みんな、それぞれの道を見つけ、歩き出している。僕だけが、まだ過去の亡霊に囚われ、停滞した時間の中にいるような気がした。書くことをやめた僕には、彼らのように語れる「今」も、確かな「未来」も、まだ見えていない。