僕と雪乃は、顔を見合わせることもできず、ただ黙って俯く。
 あの頃、確かに僕たちは互いを意識し、競い合い、そして認め合っていた。それは、僕にとって、そしておそらくは彼女にとっても、かけがえのない時間だったはずだ。けれど、その時間は、もう二度と戻らない。僕が、それを終わらせてしまったのだから。

「鈴木、お前、ほんとそういうとこ……」

 伊藤が呆れたように呟く。

「え? なんでだよ? 事実じゃん? なあ、柊さん? 佐伯のこと、ライバル視してたろ?」

 鈴木は、さらに追い打ちをかけるように、雪乃に話を振った。 雪乃は、顔を上げられないまま、かろうじて「別に、そんなんじゃ……」と否定する。その声は、ほとんど聞き取れないほど小さかった。

「またまたー。だって、佐伯が他の女子と話してると、すげー目で睨んでたじゃんか!」
「ちょ、鈴木! いい加減にしろよ!」

 僕が思わず声を荒げると、鈴木はようやく状況を察したのか、「え、あ、わりぃ……」とバツが悪そうに口をつぐんだ。気まずい沈黙が流れる。雪乃の耳が、わずかに赤くなっているように見えたのは、気のせいだろうか。