持ち寄ったお菓子やペットボトルのお茶を広げ、ささやかな送別会が始まった。
 話題は自然と、高校時代の思い出話へと移っていった。文芸部での合宿、文化祭での部誌作り、そして、他愛のない日常の出来事。

「あの頃、部室、マジでカオスだったよなー!」
 
 と伊藤が顔をしかめて笑う。

「佐伯が淹れるインスタントコーヒー、ただ苦いだけだったし!」
「うるさいな。あれはあれで味があったんだよ」

 僕は苦笑いで返す。部室の隅にあった、埃をかぶったコーヒーメーカー。
 そこで淹れた、やたらと苦いコーヒーの味を思い出す。

「でも、あの苦いコーヒー飲みながら、夜遅くまで原稿読んで語り合ったの、今思うとすごく贅沢な時間だったよね」

 佐藤が、懐かしそうに目を細めた。その視線は、僕と、そして雪乃へと向けられているような気がした。

「そうそう! 特に、佐伯と柊さんがお互いの原稿読んで、火花散らしてた時とか! あれは見てて面白かったよな!」

 鈴木が、悪気なく、しかし決定的に空気を読まずに言った。
 その言葉に、部屋の温度が数度下がったように感じた。