美咲先輩や橘さんの言葉が、僕の中で反響する。「向き合うこと」「正直に伝えること」「後悔するくらいなら」。僕は、逃げないと決めたはずだ。彼女に、伝えなければならないことがある。謝罪だけではない。僕の、本当の気持ちを。
 あの時、伝えるべきだった、そして今も伝えたいと願っている、歪んで、屈折した、けれど嘘偽りのない僕の言葉を。
 これが、最後のチャンスかもしれない。そう思った。この機会を逃せば、僕たちの間に横たわる溝は、二度と埋まることなく、永遠に広がっていくだけだろう。それは、嫌だ。たとえどんな形であれ、僕は彼女との関係を、このまま終わらせたくなかった。失われた過去は戻らないとしても、
 現在と、そして未来の関係性を、この手で変えたいと願っていた。

「行くよ。俺も参加する」

 誰に言うともなく、乾いた唇から言葉が漏れた。僕は、まだ微かに震える指で、『参加します』とだけ打ち込み、送信ボタンを押した。画面に表示された『送信済み』の文字が、まるで宣告のように重く感じられた。
 送信した後も、心臓の鼓動は速いままだ。本当にこれで良かったのか? いや、良かったはずだ。一歩、踏み出したのだから。そう自分に言い聞かせながらも、指は無意識にスマートフォンの画面をスクロールしていた。グループチャットの他のメンバーの反応を確認するように。鈴木、伊藤、佐藤が、次々と参加の意向を示している。そして――。

『柊 雪乃:参加します。先生には本当にお世話になったので』

 彼女の名前と、その簡潔なメッセージが、目に飛び込んできた。
 瞬間、呼吸が浅くなる。やはり、彼女も来るのだ。その事実に、腹の底から這い上がってくるような恐怖と、同時に、避けられない運命に立ち向かうような、奇妙な高揚感が入り混じる。覚悟は、決めたはずだった。なのに、彼女の名前を見ただけで、これほどまでに心が揺さぶられる。