一人の女子高生として――。

 私にも「青春」という文学上の概念だったその言葉を手にしたかった。

「青春」を一緒に過ごしたかった相手がいた。
 本当は、二人でどこかに出かけたかった。
 本当は、二人で手を繋いで歩きたかった。
 本当は、二人で照れた表情を見せ合いかった。
 卒業式には彼の第二ボタンが欲しかった。
 私のデビューが決まった時には喜びあいたかった。
 一番、最初に彼に報告したかった。
 一番、最初に彼に読んで欲しかった。
 一番、最初に彼に――。

 ――「おもしろい」って言ってほしかった。

 過ぎ去った後悔――。もう、過去は変えられない。
 恋愛は無情、無情は救えない。
 でも、それでも、人の淡い期待は、意外と叶うものだと思う。
 小説家――、それは空想の物語を通して、「期待」を売るものだと思っている。
 悲惨な、無情な、現実からの現実逃避。それでいい。
 スマートフォンが鳴った。握りしめていたそれ――。
 友達なんてそんないやしない。スマートフォンが鳴ることなど滅多にない。
 だから、鳴るときは決まって、淡い期待が形になるとき――。