一瞬、全てを打ち明けてしまいたい衝動に駆られた。書けないんです、怖いんです、プレッシャーに押し潰されそうなんです、と。けれど、そんな弱音を吐けるはずがない。私はプロの作家なのだ。「天才」と持て囃される存在なのだ。

「いえ…特に、ありません」

　私は、努めて平静を装い、首を横に振った。

「ただ、少し…新しい表現を模索している段階なので、時間がかかっているだけです。ご指摘いただいた点は、よく理解できました。もう一度、プロット全体を見直し、修正してみます」

　それは、半分本当で、半分嘘だった。模索しているのは確かだが、道筋は全く見えていない。修正できる自信など、欠片もない。けれど、そう言うしかなかった。

　小野寺さんは、私の言葉をじっと聞いていた。その表情からは、私の嘘を見抜いているのか、それとも信じているのか、読み取ることはできない。

「…分かりました」
　やがて、彼女は静かに頷いた。

「雪乃さんの言葉を信じます。ですが、時間は無限ではありません。編集部としても、次の作品への期待は非常に大きい。その点は、どうか忘れないでください」

　最後の言葉は、静かだが、確かな重みを持っていた。それは、励ましであり、同時に最後通牒のようにも聞こえた。