「なんていうか…すごく乾いているようで、でも、突き放しているわけじゃなくて。その奥に、すごく繊細で、壊れそうな感情が隠れているような気がして…」

 そこまで言って、私ははっとした。まるで、自分のことを語っているようだ、と。言葉にできなかった私の内面を、サガンの文章に託けて表現してしまったような気がして、急に恥ずかしくなる。

「わかります!」

 けれど、彼女は私の言葉に、深く頷いてくれた。その大きな瞳が、共感の色を浮かべて、真っ直ぐに私を見つめている。

「そうそう、それです! 乾いてるのに、切ない! まさに! 言葉にするのって、本当に難しいのに、どうしてあんな風に書けるんでしょうね…。憧れちゃいます」

 彼女は、ふう、と一つ息をつき、少しだけ遠い目をした。その横顔に、先ほどとは違う、少しだけ物憂げな影が差したように見えたのは、気のせいだろうか。

「私、昔、ちょっとだけバンドやってて、歌詞とか書いてたんですよ」

 ぽつり、と彼女が呟いた言葉に、私は耳を疑った。バンド? 彼女が? この、穏やかで柔らかな雰囲気の人が?

「へえ…そうなんですか。意外です」 「よく言われます」彼女は悪戯っぽく笑った。「まあ、全然、鳴かず飛ばずで終わっちゃったんですけどね。でも、楽しかったなあ。自分の気持ちとか、見てる風景とかを、どうにかして言葉にしたくて、必死にもがいてた時期があったんです」

 彼女は、懐かしむように目を細める。

「でも、全然上手くいかなくて…。伝えたいことの、本当に、ほんの欠片くらいしか、言葉にできなかった。才能、なかったんですよね、きっと」