「お待たせいたしました。キリマンジャロです。熱いのでお気をつけて」 「ありがとうございます」
私は礼を言い、カップにそっと手を添えた。指先に伝わる、心地よい熱。鼻腔をくすぐる、深く香ばしいアロマ。期待に胸が小さく膨らむ。
一口、ゆっくりと口に含む。最初に感じたのは、しっかりとした苦味。けれど、それは決して不快なものではなく、むしろ輪郭のはっきりとした、潔い苦味だ。舌の上で転がすと、その奥から、チョコレートのような深いコクと、微かな酸味が顔を出す。そして、飲み込んだ後に残る、すっきりとした後味。
「……美味しい……」
思わず、小さな声が漏れた。それは、紛れもない本心だった。一杯のコーヒーが、こんなにも心を慰めてくれることがあるなんて、少し忘れていた感覚だった。
顔を上げると、彼女がカウンターに片肘をつき、にこにことこちらを見ていた。私の独り言が聞こえてしまったのだろうか。少し恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らす。
「よかった。お口に合ったみたいで」
彼女の声は、やはり明るく、弾んでいる。
「あの、もし違ったら全然気にしないでくださいね。その本…」
彼女の視線が、私の手元にある文庫本へと注がれているのに気づく。
「もしかして、サガンの小説ですか?」
少しだけ声を潜めて、彼女が尋ねた。その瞳には、先ほどの店員としての顔とは違う、個人的な興味と、少しだけ興奮したような光が宿っているように見えた。
私は礼を言い、カップにそっと手を添えた。指先に伝わる、心地よい熱。鼻腔をくすぐる、深く香ばしいアロマ。期待に胸が小さく膨らむ。
一口、ゆっくりと口に含む。最初に感じたのは、しっかりとした苦味。けれど、それは決して不快なものではなく、むしろ輪郭のはっきりとした、潔い苦味だ。舌の上で転がすと、その奥から、チョコレートのような深いコクと、微かな酸味が顔を出す。そして、飲み込んだ後に残る、すっきりとした後味。
「……美味しい……」
思わず、小さな声が漏れた。それは、紛れもない本心だった。一杯のコーヒーが、こんなにも心を慰めてくれることがあるなんて、少し忘れていた感覚だった。
顔を上げると、彼女がカウンターに片肘をつき、にこにことこちらを見ていた。私の独り言が聞こえてしまったのだろうか。少し恥ずかしくなって、慌てて視線を逸らす。
「よかった。お口に合ったみたいで」
彼女の声は、やはり明るく、弾んでいる。
「あの、もし違ったら全然気にしないでくださいね。その本…」
彼女の視線が、私の手元にある文庫本へと注がれているのに気づく。
「もしかして、サガンの小説ですか?」
少しだけ声を潜めて、彼女が尋ねた。その瞳には、先ほどの店員としての顔とは違う、個人的な興味と、少しだけ興奮したような光が宿っているように見えた。
