空白はエンドロールのままで

 ふと、マウスに手が伸び、無意識のうちにブラウザを開いていた。SNSのアイコンが目に入る。見てはいけない、と頭では分かっているのに、指が勝手にクリックしてしまう。タイムラインには、やはり私の名前が散見された。

『柊先生の次回作、いつ出るんだろう?待ちきれない!』 『ソラネルを超える衝撃を期待してます!』

 その純粋な期待の声が、今はガラスの破片のように私の胸に突き刺さる。応えられないかもしれない、という恐怖。
 スクロールする指が、ふと止まる。そこには、匿名のアカウントからの、心無い言葉があった。

『どうせ次も似たような話だろ』 『一発屋乙。もう才能枯れてるんじゃない?』

 見なければいいのに。分かっているのに。その言葉は、まるで毒のように私の思考を蝕んでいく。彼らの言う通りなのかもしれない。私の才能は、もう尽きてしまったのかもしれない。そんな弱音が、心の隙間から顔を出す。
 慌ててブラウザを閉じる。けれど、一度見てしまった言葉は、簡単には消えてくれない。耳鳴りのように、頭の中で反響し続けている。

 再び、真っ白な画面と向き合う。点滅するカーソル。
 集中しなきゃ。
 明日の取材で、何を話せばいい? 次回作への意気込み? 創作の裏側? どんな言葉を選べば、読者は、編集者は、そして世間は満足するのだろう。嘘をつきたくはない。けれど、本当の苦しみを吐露するわけにもいかない。「天才女子高生作家」という虚像を、私は演じ続けなければならないのだ。

 指が、ようやく動き始める。カタカタ、と乾いた音が部屋に響く。取材で話す内容のメモ。当たり障りのない言葉を、ただ機械的に打ち込んでいく。前向きな姿勢、創作への情熱、読者への感謝。それは、まるで脚本を読むかのように、空虚で、どこか他人事のようだった。