「分かってる。お母さんの言いたいこと、分かってるよ」

 私は、諦めたように呟いた。これ以上、何を言っても平行線だ。私たちは、違う世界を見ている。

「でも、ちゃんと勉強もしてるから。……今は、もう少しだけ、一人で考えさせてほしい」

 そう言うのが精一杯だった。母は、何か言いたげな表情で私を見つめていたが、やがて、諦めたように小さく頷いた。

「分かったわ。でも、無理だけはしないでね。辛い時は、いつでもお母さんに言うのよ」

 その言葉に、私はただ黙って頷くことしかできなかった。
 重い沈黙が、リビングに落ちる。湯呑みのお茶は、もうすっかり冷めてしまっていた。私は、逃げるようにソファから立ち上がり、自室へと向かった。背中に感じる母の視線が、痛かった。

 自室のドアを静かに閉めると、ようやく一人になれた安堵感と、母親を傷つけてしまった罪悪感、そして、どこにもぶつけることのでない巨大な不安感が、どっと押し寄せてきた。

 ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
 結局、誰も分かってくれない……いや、分かろうとしてくれているのかもしれないけど……私のこの苦しみは、私にしか分からない
 孤独だった。作家としても、一人の高校生としても、私は深い孤独の中にいる。その事実に、改めて打ちのめされる。そして、その孤独の中で、私はまた、あの真っ白な画面と向き合わなければならないのだ。明日の取材の準備も、まだ何もできていない。
 重い体を無理やり起こし、ライティングデスクへと向かう。机に山積みになった参考書と赤本をどしのけて、パソコンを開く指先が、鉛のように重かった。