「この主人公の行動原理が、少し読者には理解しづらいかもしれません。もう少し、過去のエピソードを具体的に入れることで、感情移入しやすくなるのでは?」
「中盤のこの展開ですが、やや唐突な印象を受けます。もう少し伏線を張るか、あるいは別の展開を考えた方が、物語としての完成度は高まるかと」
「全体的に、雪乃さんらしい繊細な心理描写は健在ですが、前作『海辺のソラネル』ほどの、読者の心を鷲掴みにするような『何か』が、まだ少し足りない気がします」
一つ一つの指摘が、鋭いナイフのように私の胸を抉る。分かっている。私自身が一番、それを感じているのだから。書けない。言葉が出てこない。頭の中は、まるで濃い霧に覆われたように真っ白で、どんなに手を伸ばしても、確かなイメージを掴むことができない。前作で出し尽くしてしまったのだろうか。私の才能は、もう枯れてしまったのだろうか。そんな恐怖が、黒い影のように絶えず私に付きまとっている。
SNSを開けば、無数の期待の声が目に飛び込んでくる。「次回作、楽しみにしています!」「雪乃先生なら、きっとまた奇跡を見せてくれるはず!」。その一方で、匿名性の高い場所では、心無い言葉も散見される。「一発屋」「才能の枯渇」「期待外れ」。どちらの声も、今の私には重すぎた。期待はプレッシャーとなり、批判は恐怖となる。いつからだろう。書くことが、あんなに好きだったはずなのに、今はただ苦しいだけになってしまったのは。
打ち合わせの終わりに、私はほとんど無意識に、懇願するように小野寺さんに問いかけていた。
「……少しだけ、お休みをいただくことは……」
彼女は一瞬、目を丸くした。それから、すぐに冷静さを取り戻し、慎重に言葉を選んで答えた。
「……締め切りまでの時間を考えると、正直、あまり余裕はありません。ですが、雪乃さんのコンディションが最優先です。もし、どうしても必要であれば、一度編集長にも相談してみますが……その前に、何か気分転換になるようなことを試してみてはいかがでしょう? 短い旅行とか、あるいは……旧友に会ってみるとか」
「中盤のこの展開ですが、やや唐突な印象を受けます。もう少し伏線を張るか、あるいは別の展開を考えた方が、物語としての完成度は高まるかと」
「全体的に、雪乃さんらしい繊細な心理描写は健在ですが、前作『海辺のソラネル』ほどの、読者の心を鷲掴みにするような『何か』が、まだ少し足りない気がします」
一つ一つの指摘が、鋭いナイフのように私の胸を抉る。分かっている。私自身が一番、それを感じているのだから。書けない。言葉が出てこない。頭の中は、まるで濃い霧に覆われたように真っ白で、どんなに手を伸ばしても、確かなイメージを掴むことができない。前作で出し尽くしてしまったのだろうか。私の才能は、もう枯れてしまったのだろうか。そんな恐怖が、黒い影のように絶えず私に付きまとっている。
SNSを開けば、無数の期待の声が目に飛び込んでくる。「次回作、楽しみにしています!」「雪乃先生なら、きっとまた奇跡を見せてくれるはず!」。その一方で、匿名性の高い場所では、心無い言葉も散見される。「一発屋」「才能の枯渇」「期待外れ」。どちらの声も、今の私には重すぎた。期待はプレッシャーとなり、批判は恐怖となる。いつからだろう。書くことが、あんなに好きだったはずなのに、今はただ苦しいだけになってしまったのは。
打ち合わせの終わりに、私はほとんど無意識に、懇願するように小野寺さんに問いかけていた。
「……少しだけ、お休みをいただくことは……」
彼女は一瞬、目を丸くした。それから、すぐに冷静さを取り戻し、慎重に言葉を選んで答えた。
「……締め切りまでの時間を考えると、正直、あまり余裕はありません。ですが、雪乃さんのコンディションが最優先です。もし、どうしても必要であれば、一度編集長にも相談してみますが……その前に、何か気分転換になるようなことを試してみてはいかがでしょう? 短い旅行とか、あるいは……旧友に会ってみるとか」
