「いや、よくない。ちゃんと話させてくれ。あの時、俺……」
「……分かってない! 先輩は、全然分かってない……!」

 突然、雪乃の声のトーンが鋭くなった。感情が、抑えきれずに溢れ出したようだった。

「私が……どんな気持ちで、あの喫茶店に行ったか……! 先輩に、話を聞いてほしくて……! 読んでたんでしょ、あの時! 部室で! 私の、あの……! コーヒーカップ、残ってたもの! 全部、知ってたんだから!」

 僕は息をのんだ。彼女は、気づいていたのか。僕が、あの原稿を読んだことを。

「なのに……! どうして……どうして、一言も……! あれだけ、先輩に……先輩にだけは、認めてほしかったのに……!」

 雪乃の声が震え、言葉が途切れる。彼女の瞳から、堪えていた涙が一筋、頬を伝った。

「あの時…先輩が何も言ってくれなかったから…! 私、ずっと…自分の言葉が…どこか嘘みたいで…怖かった…!」

 予期していなかった言葉。
 僕が関係性の変化を恐れていた裏側で、彼女はそんな風に傷ついていたのか。

 僕の沈黙が、彼女の才能への確信を、根底から揺るがしていたというのか。 衝撃と、そして激しい後悔が、僕の胸を突き刺した。