『言わないで、このまま時間が過ぎていく方が、もっと残酷な気も、私はするんだよね』
「…………」
『だって、お互いに誤解したまま、あるいは本当の気持ちを知らないまま、関係が終わっちゃうかもしれないんだよ？ それって、すごく悲しいことじゃない？』

　悲しいこと。その言葉が、すとんと胸に落ちた。そうだ、悲しいのだ。あの輝かしい時間が過去のものとなり、互いに傷つけ合い、あるいは理解し合えないまま、関係が断絶してしまうことが。

『私の話した昔の後悔だってさ、』

　美咲先輩の声が、少しだけトーンを落とした。

『結局、「もしあの時、勇気を出してたら」って、十年近く経った今でも、ふとした時に考えちゃうんだよね。それって結構、しんどいよ。未練がましいのかもしれないけどさ』

　彼女の率直な告白が、僕の胸を打つ。後悔の棘は、時間が経っても簡単には抜けないのだ。

『だからね、蓮くん。……傷つけるのが怖い、って気持ちは、痛いほど分かる。でも、それ以上に、後悔したくないって思うなら……やっぱり、ぶつかってみるしかないんじゃないかな』
「ぶつかる……」
『うん。カッコ悪くても、みっともなくてもいいからさ。自分の正直な気持ちを、言葉にして伝えるの。それで、もし関係が変わっちゃっても……それは、それで、受け止めるしかない。でも、何もしないで終わるよりは、きっと前に進めると思うんだ。蓮くん自身が』

　正直な気持ちを伝える。関係が変わることを受け止める。そして、前に進む。
　その言葉は、まるで暗闇の中に差し込んだ、細いけれど確かな光のように感じられた。そうだ、僕は前に進みたいのだ。過去に縛られ、この停滞した場所から。

『……もちろん、どうするか決めるのは蓮くん自身だよ。私がとやかく言えることじゃないけど……』

　彼女は、いつもの明るい声色を少しだけ取り戻して言った。

『でも、応援してるから。蓮くんが、ちゃんと自分で考えて、決めた道なら――』