美咲先輩の声は、静かで、優しい。

「はい……。怖くて。本当のことを言ったら、相手を傷つけるだけな気がして……それに、なんていうか……もう、手遅れなのかなって……」
『手遅れ……』

 彼女は、僕の言葉を繰り返した。

『蓮くんはさ、どうしたいの? その、大事な相手と』

 どうしたいのか。その問いは、僕の核心を突いていた。

「……どう、したいか……」

 僕は、天井を見上げた。

「前みたいに……は、無理だとしても……ちゃんと、話がしたい、です。誤解されたままなのは、嫌だし……俺が、言えなかったことで、相手が苦しんでるのかもしれないって思ったら……」

 自分の口から出た言葉に、少しだけ驚く。僕は、ただ過去を美化し、関係性の変化を恐れていたわけではなかった。雪乃が苦しんでいるかもしれない、という可能性に、確かに心を痛めていたのだ。そして、その原因の一端が自分にあるという自覚が、僕を苛んでいた。

『うん……』

 美咲先輩は、深く息を吸い込む音を立てた。電話の向こうで、彼女もまた、言葉を選んでいるようだった。

『……さっきも言ったけど、正直、難しい問題だと思う。相手の気持ちは、相手にしか分からないからね。蓮くんが正直に話したことで、相手がもっと傷つく可能性も、ゼロじゃない』

 その現実に、僕の心は再び冷水を浴びせられたように冷たくなる。
『でもね、』

 彼女は続けた。