空白はエンドロールのままで

 時間は、鉛のように重く、そして遅く進んだ。スマートフォンの画面は暗いままだ。既読の表示すらつかないことに、焦りと、そして「やっぱり迷惑だったか」という後悔がじわじわと胸に広がってくる。テーブルの上に置かれたそれに視線を固定したまま、僕は意味もなく部屋の中を歩き回った。壁のシミを数えたり、本棚の背表紙を眺めたり。だが、意識は常に、手のひらサイズの無機質な板へと引き戻される。

 どれくらいそうしていただろうか。十分か、あるいは三十分か。もはや時間の感覚は曖昧だった。諦めてシャワーでも浴びようか、と思った、まさにその瞬間。

 ピコン、と軽やかな通知音が静寂を破った。
 心臓が跳ねる。僕は慌ててスマートフォンを手に取った。画面には、待ち望んでいた名前が表示されている。

『美咲先輩:お疲れー! ごめん、今バイト終わったとこ! 大丈夫だよ、どうしたの? 今電話できる?』

 文面には、いつもの彼女らしい、明るく軽やかな絵文字がいくつか添えられていた。その気遣いが、強張っていた僕の心を少しだけ解きほぐす。
 電話か――。
 メッセージではなく、直接話すことを提案してくれたのは、僕のただならぬ様子を察してくれたからだろうか。あるいは、単に文字を打つのが面倒だっただけかもしれないが。

 どちらにせよ、僕にとってはありがたい申し出だった。声を聞けば、少しは落ち着けるかもしれない。
 僕は、震える指で『ありがとうございます』とだけ返し、すぐに彼女の名前をタップして、通話ボタンを押した。数回の呼び出し音の後、スピーカーから彼女の声が聞こえてくる。

『もしもし、蓮くん?』
「あ……はい、佐伯です。夜分に、すみません、突然」
『ううん、全然大丈夫だよー。こっちこそ、返事遅くなってごめんね。で、どうしたの? なんか、すごい深刻そうなメッセージだったけど』

 電話越しの彼女の声は、バイト先で聞くよりも少しだけ低く、落ち着いて聞こえた。背景には、駅のホームか、あるいは帰り道の雑踏のような、微かなノイズが混じっている。
「いや……その……」

 いざ話そうとすると、言葉が出てこない。何から話せばいいのか。どこまで話すべきなのか。

『うん……?』

 スピーカーの向こうで、彼女が辛抱強く待ってくれている気配がする。その沈黙が、僕に言葉を促した。
「……この間、バイトの時に、少し話したこと……覚えてますか?」
『うん、覚えてるよ。大事なものを、壊しちゃったかもしれないって話、だよね?』
「はい……。それで……あの後、また……その、相手と、話す機会があったんですけど……」

 僕は、言葉を選びながら、ゆっくりと話し始めた。