空白はエンドロールのままで

 橘さんは満足そうに頷き、自身もコーヒーを一口飲んだ。
 しばらくの間、沈黙が続いた。ただ、コーヒーを啜る音と、壁の古時計の秒針の音だけが聞こえる。この店の沈黙は、不思議と苦にならない。むしろ、心が落ち着くような気がした。

「……何か、あったのかい?」

 やがて、橘さんが静かに切り出した。その問いかけは、直接的ではあったが、詮索するような響きはなかった。

「……ええ、まあ……少し」

 僕は、カップを見つめたまま答えた。

「この間の……あのお嬢さんと、何か関係があるのかね?」

 彼の言葉に、僕は顔を上げた。やはり、気づいていたのだ。

「……はい。高校の、後輩なんです。……色々、ありまして」
「そうか……」

 橘さんは、それ以上は深く尋ねようとはせず、ただ静かに頷いた。

「……あの子は、大変な才能の持ち主だ。だが、才能というのは、時に人を孤独にするものでもあるからね」

 その言葉は、僕の胸にすとんと落ちた。才能ゆえの孤独。喫茶店で雪乃が漏らした不安と、それは繋がっているのかもしれない。

「君も、何か書くのかい?」

 不意に、橘さんが尋ねた。