『佐伯君、元気にしてるかい? この間、顔色が悪かったから少し気になってね。もし時間があるなら、少し店に寄らないか。新しいコーヒー豆が入ったんだ』
橘書店からのメッセージ。驚いた。あの寡黙な店主が、僕のことを気にかけてくれていたなんて。そして、このタイミングでの連絡。それは、まるで、立ち尽くす僕に差し伸べられた、細い蜘蛛の糸のように思えた。
僕は、しばらくメッセージを眺めた後、『ありがとうございます。今から、伺ってもいいですか?』と返信した。すぐに既読がつき、『ああ、待ってるよ』と短い返事が来た。
僕は、浅川の土手を後にし、再び駅の北口方面へと歩き始めた。足取りは、先ほどより少しだけ、軽くなっているような気がした。
『橘書店』の古びた引き戸は、軋んだ音を立てて僕を迎えた。埃と古紙とインクの匂いが混じり合った、懐かしい空気が鼻腔をくすぐる。店内には、僕以外に客はいなかった。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、橘さんが顔を上げた。銀縁の眼鏡の奥の瞳が、穏やかに僕を見ている。
「……突然すみません、お誘いいただいて」
「いや、いいんだ。ちょうど手が空いていたからね。……まあ、座りなさい」
橘さんはそう言って、カウンターの隅にある、客用の小さな丸椅子を指した。そして、店の奥にある小さなキッチンへと消え、やがて二つのコーヒーカップを持って戻ってきた。
僕の前に、湯気の立つカップを静かに置く。
「新しい豆なんだ。ケニアの。少し酸味が強いが、香りが良くてね」
「ありがとうございます」
僕はカップを手に取り、立ち上る豊かな香りを吸い込んだ。そして、一口、ゆっくりと味わう。しっかりとした苦味の中に、フルーティーな酸味と華やかな香りが感じられた。
「……美味しいです」
「そうか、それは良かった」
橘書店からのメッセージ。驚いた。あの寡黙な店主が、僕のことを気にかけてくれていたなんて。そして、このタイミングでの連絡。それは、まるで、立ち尽くす僕に差し伸べられた、細い蜘蛛の糸のように思えた。
僕は、しばらくメッセージを眺めた後、『ありがとうございます。今から、伺ってもいいですか?』と返信した。すぐに既読がつき、『ああ、待ってるよ』と短い返事が来た。
僕は、浅川の土手を後にし、再び駅の北口方面へと歩き始めた。足取りは、先ほどより少しだけ、軽くなっているような気がした。
『橘書店』の古びた引き戸は、軋んだ音を立てて僕を迎えた。埃と古紙とインクの匂いが混じり合った、懐かしい空気が鼻腔をくすぐる。店内には、僕以外に客はいなかった。
「いらっしゃい」
カウンターの奥から、橘さんが顔を上げた。銀縁の眼鏡の奥の瞳が、穏やかに僕を見ている。
「……突然すみません、お誘いいただいて」
「いや、いいんだ。ちょうど手が空いていたからね。……まあ、座りなさい」
橘さんはそう言って、カウンターの隅にある、客用の小さな丸椅子を指した。そして、店の奥にある小さなキッチンへと消え、やがて二つのコーヒーカップを持って戻ってきた。
僕の前に、湯気の立つカップを静かに置く。
「新しい豆なんだ。ケニアの。少し酸味が強いが、香りが良くてね」
「ありがとうございます」
僕はカップを手に取り、立ち上る豊かな香りを吸い込んだ。そして、一口、ゆっくりと味わう。しっかりとした苦味の中に、フルーティーな酸味と華やかな香りが感じられた。
「……美味しいです」
「そうか、それは良かった」
