僕がその言葉を与えなかったことで、彼女はずっと、自信という名の杖を持てずに、暗闇の中を歩き続けてきたのかもしれない。
僕が恐れていたのは、関係性の変化だけではなかった。彼女の才能を認めることで、僕自身の凡庸さを突きつけられること。そして、彼女が僕の手の届かない場所へ行ってしまうことへの、幼稚な独占欲。なんと醜く、身勝手な感情だろうか。
自己嫌悪で、胸がむかむかする。
ベンチから立ち上がり、再びあてどなく歩き始めた。公園を出て、住宅街の細い路地を抜ける。どこへ向かっているのか、自分でも分からない。ただ、足を動かし続けていないと、この場に崩れ落ちてしまいそうだった。
やがて、僕は浅川の土手に出ていた。高校時代、雪乃と時々、帰り道に歩いた場所だ。川面は、夕暮れの最後の光を反射して、鈍い銀色に光っている。対岸の家々の窓には、ぽつぽつと明かりが灯り始めていた。風が、冷たく頬を撫でる。
僕は、土手の上に立ち止まり、川の流れを眺めた。あの頃、ここで雪乃が語った言葉を思い出す。
『言葉にならないものを、なんとか言葉にしようとすること自体が、書くってことなのかも』
今の僕には、言葉にならないものすら、見つけられない。僕の中は、空っぽだ。あるいは、言葉にしたくない、どろどろとした感情で満ちているだけなのかもしれない。
このままじゃ、駄目だ。
あの雨の夜にも思ったこと。けれど、今日は、もう少しだけ切実に、そして具体的に、その思いが胸に迫ってきた。変わりたい。この停滞から抜け出したい。過去を清算し、前を向きたい。そして……できることなら、雪乃との関係を、もう一度……。
でも、どうすれば? 何から始めれば?
その時、ポケットの中で再びスマートフォンが震えた。今度は、メッセージアプリの通知だった。開くと、それは予想外の相手からだった。
僕が恐れていたのは、関係性の変化だけではなかった。彼女の才能を認めることで、僕自身の凡庸さを突きつけられること。そして、彼女が僕の手の届かない場所へ行ってしまうことへの、幼稚な独占欲。なんと醜く、身勝手な感情だろうか。
自己嫌悪で、胸がむかむかする。
ベンチから立ち上がり、再びあてどなく歩き始めた。公園を出て、住宅街の細い路地を抜ける。どこへ向かっているのか、自分でも分からない。ただ、足を動かし続けていないと、この場に崩れ落ちてしまいそうだった。
やがて、僕は浅川の土手に出ていた。高校時代、雪乃と時々、帰り道に歩いた場所だ。川面は、夕暮れの最後の光を反射して、鈍い銀色に光っている。対岸の家々の窓には、ぽつぽつと明かりが灯り始めていた。風が、冷たく頬を撫でる。
僕は、土手の上に立ち止まり、川の流れを眺めた。あの頃、ここで雪乃が語った言葉を思い出す。
『言葉にならないものを、なんとか言葉にしようとすること自体が、書くってことなのかも』
今の僕には、言葉にならないものすら、見つけられない。僕の中は、空っぽだ。あるいは、言葉にしたくない、どろどろとした感情で満ちているだけなのかもしれない。
このままじゃ、駄目だ。
あの雨の夜にも思ったこと。けれど、今日は、もう少しだけ切実に、そして具体的に、その思いが胸に迫ってきた。変わりたい。この停滞から抜け出したい。過去を清算し、前を向きたい。そして……できることなら、雪乃との関係を、もう一度……。
でも、どうすれば? 何から始めれば?
その時、ポケットの中で再びスマートフォンが震えた。今度は、メッセージアプリの通知だった。開くと、それは予想外の相手からだった。
