空白はエンドロールのままで

 まぶたの裏で明滅していた鮮やかな光が、ゆっくりと闇に溶けていく。

 意識が浮上すると同時に、現実の重みが鈍い頭痛のようにこめかみを圧迫し始めた。
 目の前には、大学の講義室特有の、乾いた空気と、誰かの残した消しゴムのカスが散らばる長机。そして、窓の外に広がる、晩秋の侘しいキャンパス風景。葉を落とし尽くし、灰色の空に向かって寒々しく枝を伸ばす銀杏並木は、まるで僕の心象風景そのもののようだっ
た。

 あの頃は、あんなにも世界が輝いて見えたのに――。
 夢の中にあったのは、疑うことを知らない希望と、共有された熱量、そして隣にいるだけで満たされた、確かな時間だった。雪乃という存在が、そのまだ小さかった才能が、僕の世界の中心で太陽のように輝き、僕自身のちっぽけな存在すらも照らし出していた。

 その光を失った今、僕の世界は、まるで古いモノクロ映画のように色褪せて見える。

「……おい、佐伯! 聞いてんのかって!」

 肩を強く揺さぶられ、僕ははっと顔を上げた。隣の席の中村が、呆れたような、しかしどこか心配そうな表情で僕を覗き込んでいる。どうやら、また講義中に意識を飛ばしていたらしい。周囲を見渡せば、学生たちは既にまばらになっていた。

「……悪い。ちょっと、考え事してた」
「考え事ねぇ……。今日の美術史、教授がお前のこと指そうとしてたぞ? 俺が『腹痛いみたいです』って誤魔化しといたけど。マジで心ここに在らずって感じだぜ、最近のお前」

 中村は、教科書やノートをやや乱暴にリュックに詰め込みながら言った。

「この間も言ったけどさ、なんかあったのか? 俺でよけりゃ、話くらい聞くけど」

 彼のストレートな物言いに、僕は少しだけ口ごもる。
 中村は、良くも悪くも裏表がなく、僕のような屈折した人間とは対極にいるような男だ。彼に、この複雑な胸の内を理解してもらうのは難しいだろう。

 それでも、彼の言葉の端々に滲む不器用な優しさが、今は少しだけ胸に沁みた。

「……いや、大したことじゃないんだ。気にしないでくれ」

 結局、僕はそう言って曖昧に笑うことしかできなかった。

「それより、さっきの話だけど、ゲーセン、今日はやっぱりやめとく。ごめん」