空白はエンドロールのままで

 その真剣な横顔は、まるで物語の着想を得ようとしているようで、僕は声をかけるのを躊躇った。

「……綺麗ですね、先輩」

 不意に、彼女が呟いた。

「ああ、そうだな」
「こういう風景を見ると、言葉にしたくなるんです。でも、どんな言葉を使っても、この綺麗さには敵わない気がして……少しだけ、悔しくなる」

 彼女ほどの才能があっても、そんな風に感じるのか、と僕は少し意外に思った。
「でも、だから書くのかもしれないですね。この、言葉にならないものを、なんとか言葉にしようとすること自体が、書くってことなのかも」

 彼女は、僕の方を見ずに、遠くの空を見つめながら言った。その言葉は、僕の心にも深く響いた。

「ねえ、先輩」

 また別の日の帰り道、彼女が言った。

「いつか、二人で本を出せたらいいですね。同じ本屋に並んでるの、見てみたいな。……まあ、私の方が先にデビューして、先輩は私のサイン会に並ぶことになると思いますけど!」

 いつもの生意気な口調。けれど、その瞳は、未来への疑いようのない希望で輝いていた。

「バーカ。俺の方が先に決まってるだろ」

 僕も笑って応じた。

「お前こそ、俺のサイン、ちゃんと貰いに来いよな」
「えー、どうしようかなー」

 そんな、他愛のないやり取り。
 あの頃の僕には、未来はそんなふうに、明るく開けているとしか思えなかったのだ。雪乃という眩しい才能が隣にあることさえ、僕自身の未来を照らす光の一部だと、疑いもしなかった。
 僕たちは、違う輝きを持つ二つの星が、同じ軌道を描いて夜空を駆けていくような、そんな奇跡的な時間を生きていたのだ。

 そう、あの決定的な一日が、僕たちの軌道を無慈悲に引き裂き、全てを過去へと押し流してしまうまでは――。