空白はエンドロールのままで

「柊 雪乃 海辺のソラネル 感想」

 Enterキーを押すと、画面には無数のテキストが洪水のように溢れ出した。

 書評ブログ、ニュースサイト、個人のSNSアカウント……そのほとんどが、最大級の賛辞で埋め尽くされていた。

 「天才」「魂を揺さぶる」「今年最高傑作」――。それらの言葉を、僕は食い入るように目で追った。

 感嘆と、畏敬。そして、どうしようもない疎外感と、焦り。中には、ごく少数だが、批判的な意見や、あるいは「期待外れだった」という声も混じっていた。
 僕は、無意識のうちに、そうした否定的な言葉を探している自分に気づき、吐き気を覚えた。
 読んでもいないくせに。 スマートフォンのブルーライトだけが頼りの薄暗い部屋で、深く息をつく。冷蔵庫から、ほとんど習慣のように缶コーヒーを取り出す。

 ブラックの、苦い液体。プルタブを開ける乾いた音が、静寂に響いた。 コーヒーを一口飲む。その苦さが、妙に思考をクリアにした気がした。 僕は、再びパソコンに向き合う。そして、何かを決意したように、キーボードに指を置いた。

 カタカタ、カタカタ……。

 静かな部屋に、規則的なタイピングの音だけが響き始める。画面に何が映し出されているのか、彼がどんな言葉を紡ぎ出しているのか、それはまだ誰にも分からない。

 ただ、彼の指先は、迷いなく、そして止まることなく、何かを生み出し続けていた。それは、長い間止まっていた彼の時間が、ようやく動き出した証のように、暗闇の中で確かな熱を帯びていた――。