「いや、別に……。彼女なんていないし、大学も……まあ、普通だよ。特に面白いこともない」
僕は正直に、そして少し自嘲気味に答えるしかなかった。
「……ふうん」
雪乃はそれだけ言うと、また黙り込んでしまった。彼女の真意は読めなかったが、この会話もまた、二人の間の壁を厚くしただけのような気がした。僕たちの時間は、もう決して交わることはないのかもしれない。
「……すみません、先輩。いきなり、こんな重い話しちゃって。困らせましたよね」
やがて、雪乃は無理に作ったような、引きつった笑顔を僕に向けた。そして、ほとんど手をつけていない紅茶のカップを一瞥すると、ゆっくりと立ち上がった。
「でも、誰かに聞いてほしかったんです。……じゃあ、そろそろ行きますね」
「あ……いや、待ってくれ……!」
僕は、思わず立ち上がりかけた。
引き止めなければ。何か言わなければ。このまま終わらせてはいけない。
そう思うのに、具体的な言葉が喉の奥でつかえて出てこない。
雪乃は、僕のそんな逡巡を見透かしたかのように、しかし何も言わずに、深く一礼した。
その動作は、まるで僕たちの関係に終止符を打つ儀式のようにも見えた。
彼女は伝票を手に取り、足早にレジへと向かった。
雨に濡れた窓の外の景色を背景に、その小さな背中が、やけに頼りなく、そして決然として見える。
僕は、ただ、その姿を立ち尽くして見送ることしかできなかった。 空になった席と、ほとんど減っていない僕のコーヒーカップ。
冷たい雨音と、物憂げなジャズ。僕のどうしようもない無力感と後悔だけが、この古い喫茶店の隅々にまで、満ちていくようだった。
僕は正直に、そして少し自嘲気味に答えるしかなかった。
「……ふうん」
雪乃はそれだけ言うと、また黙り込んでしまった。彼女の真意は読めなかったが、この会話もまた、二人の間の壁を厚くしただけのような気がした。僕たちの時間は、もう決して交わることはないのかもしれない。
「……すみません、先輩。いきなり、こんな重い話しちゃって。困らせましたよね」
やがて、雪乃は無理に作ったような、引きつった笑顔を僕に向けた。そして、ほとんど手をつけていない紅茶のカップを一瞥すると、ゆっくりと立ち上がった。
「でも、誰かに聞いてほしかったんです。……じゃあ、そろそろ行きますね」
「あ……いや、待ってくれ……!」
僕は、思わず立ち上がりかけた。
引き止めなければ。何か言わなければ。このまま終わらせてはいけない。
そう思うのに、具体的な言葉が喉の奥でつかえて出てこない。
雪乃は、僕のそんな逡巡を見透かしたかのように、しかし何も言わずに、深く一礼した。
その動作は、まるで僕たちの関係に終止符を打つ儀式のようにも見えた。
彼女は伝票を手に取り、足早にレジへと向かった。
雨に濡れた窓の外の景色を背景に、その小さな背中が、やけに頼りなく、そして決然として見える。
僕は、ただ、その姿を立ち尽くして見送ることしかできなかった。 空になった席と、ほとんど減っていない僕のコーヒーカップ。
冷たい雨音と、物憂げなジャズ。僕のどうしようもない無力感と後悔だけが、この古い喫茶店の隅々にまで、満ちていくようだった。
