僕たちは、互いの弱さを、ずるさを、そして痛みを、ようやく共有することができたのだ。長い間、互いに背負い続けてきた重荷を、今、ここで、降ろすことができた。心の中にあった、凍てついた何かが、ゆっくりと溶けていくのを感じた。

 吹き抜ける風は、まだ冷たい。けれど、僕たちの間に流れる空気は、先ほどまでとは、明らかに違っていた。言葉にしなくても分かる、確かな繋がり。それは、友情とも、ライバル意識とも違う、もっと複雑で、もっと深く、そしておそらくは、もっと脆い何か。

 過去は消せない。傷が完全になくなることもないのかもしれない。
 それでも、僕たちは、ようやく、正直な気持ちで、互いの目を見ることができたのだ。
 そして、ここから、また、新しい関係が、新しい物語が始まるのかもしれない。そんな予感が、空の下で、静かに、しかし力強く、僕の胸を満たし始めていた。

 僕は、しばらくの間、彼女の姿が見えなくなるまで、その場に立ち尽くしていた。
 別れ際、改札の向こうに消えた小さな背中。けれど、もうそこに以前のような、手の届かない距離感や、胸を締め付けるような痛みは感じなかった。

 空を見上げると、冬の星座が、以前よりもずっと近く、そして鮮やかに瞬いていた。
 冷たい夜空は、どこまでも高く、そして静かだった。
 けれど、それはもう、以前のような、僕を拒絶するような冷たさではなかった。