掠れた声で、彼女が呟いた。
「先輩の、ほんとうに、ばか…」
そして、彼女もまた、堰を切ったように語り始めた。その声は震えていたが、そこには確かな熱が籠っていた。
「私だって怖かった……」
彼女は、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。それは、僕が図書館前で聞いた、あの叫びの続きのようだった。
「先輩が、何も言ってくれなかったから……。あの時だけじゃない。私が賞をもらった時も、本が出た時も……先輩は、いつも、どこか遠くにいるみたいで……。私の言葉が、先輩には届いてないんじゃないかって……。私が書いているものは、全部、意味のない、ただの嘘なんじゃないかって……ずっと、怖かったんです」
彼女の告白は、僕の胸を鋭く抉った。僕の沈黙が、彼女をそこまで追い詰めていたというのか。僕が自分の弱さから目を逸らしている間に、彼女はずっと、そんな恐怖と孤独の中で戦っていたというのか。
「周りは、『天才』だって言うけど……そんなの、全然嬉しくなかった。だって、誰も、本当の意味で私の言葉を読んでくれてる気がしなかったから。ただ、珍しいから、若いからって、持て囃されてるだけなんじゃないかって……。そんな時、いつも思ったんです。先輩なら、きっと分かってくれるんじゃないかって。あの頃みたいに、私の言葉の、本当の意味を……」
彼女の声が、再び震える。言葉が、嗚咽に変わる。
「先輩の言葉だけが、欲しかった……。他の誰でもない、先輩に、『面白い』って、ただ、そう言ってほしかった……。それが、私のお守りだったのに……。一番、信じてた人に、裏切られたような気がして……ずっと、ずっと、苦しかった……!」
彼女の、魂からの叫びのような言葉が、僕の心に突き刺さる。お守り。裏切り。僕が、彼女にとってそんな存在だったとは。そして、僕がその信頼を、どれほど無残に踏みにじってしまったのか。激しい後悔と罪悪感が、濁流のように僕を飲み込んでいく。
「ごめん……本当に、ごめん……!」
僕は、それしか言えなかった。どんな言葉も、彼女の長年の苦しみを償うには、あまりにも軽く、空虚に響くだけだ。
雪乃は、しばらくの間、肩を震わせて泣いていた。僕は、ただ、その隣で、彼女の嗚咽が止まるのを待つしかなかった。声をかけることも、慰めることもできない。僕には、その資格がないのだから。木々が、風にざわめき、僕たちの間の沈黙を埋めているようだった。
やがて、彼女は、しゃくり上げながらも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。そして、濡れた瞳で、もう一度僕を見た。
「でも」
その声は、まだ震えていたけれど、どこか、吹っ切れたような響きも混じっていた。
「今、先輩の本当の気持ちが聞けて……少しだけ……ほんの少しだけ、救われた気もする……」
彼女の、そのか細い、けれど確かな響きを持った言葉は、僕の心に深く、そして静かに染み込んできた。
「先輩の、ほんとうに、ばか…」
そして、彼女もまた、堰を切ったように語り始めた。その声は震えていたが、そこには確かな熱が籠っていた。
「私だって怖かった……」
彼女は、途切れ途切れに言葉を紡ぎ始めた。それは、僕が図書館前で聞いた、あの叫びの続きのようだった。
「先輩が、何も言ってくれなかったから……。あの時だけじゃない。私が賞をもらった時も、本が出た時も……先輩は、いつも、どこか遠くにいるみたいで……。私の言葉が、先輩には届いてないんじゃないかって……。私が書いているものは、全部、意味のない、ただの嘘なんじゃないかって……ずっと、怖かったんです」
彼女の告白は、僕の胸を鋭く抉った。僕の沈黙が、彼女をそこまで追い詰めていたというのか。僕が自分の弱さから目を逸らしている間に、彼女はずっと、そんな恐怖と孤独の中で戦っていたというのか。
「周りは、『天才』だって言うけど……そんなの、全然嬉しくなかった。だって、誰も、本当の意味で私の言葉を読んでくれてる気がしなかったから。ただ、珍しいから、若いからって、持て囃されてるだけなんじゃないかって……。そんな時、いつも思ったんです。先輩なら、きっと分かってくれるんじゃないかって。あの頃みたいに、私の言葉の、本当の意味を……」
彼女の声が、再び震える。言葉が、嗚咽に変わる。
「先輩の言葉だけが、欲しかった……。他の誰でもない、先輩に、『面白い』って、ただ、そう言ってほしかった……。それが、私のお守りだったのに……。一番、信じてた人に、裏切られたような気がして……ずっと、ずっと、苦しかった……!」
彼女の、魂からの叫びのような言葉が、僕の心に突き刺さる。お守り。裏切り。僕が、彼女にとってそんな存在だったとは。そして、僕がその信頼を、どれほど無残に踏みにじってしまったのか。激しい後悔と罪悪感が、濁流のように僕を飲み込んでいく。
「ごめん……本当に、ごめん……!」
僕は、それしか言えなかった。どんな言葉も、彼女の長年の苦しみを償うには、あまりにも軽く、空虚に響くだけだ。
雪乃は、しばらくの間、肩を震わせて泣いていた。僕は、ただ、その隣で、彼女の嗚咽が止まるのを待つしかなかった。声をかけることも、慰めることもできない。僕には、その資格がないのだから。木々が、風にざわめき、僕たちの間の沈黙を埋めているようだった。
やがて、彼女は、しゃくり上げながらも、少しずつ落ち着きを取り戻していった。そして、濡れた瞳で、もう一度僕を見た。
「でも」
その声は、まだ震えていたけれど、どこか、吹っ切れたような響きも混じっていた。
「今、先輩の本当の気持ちが聞けて……少しだけ……ほんの少しだけ、救われた気もする……」
彼女の、そのか細い、けれど確かな響きを持った言葉は、僕の心に深く、そして静かに染み込んできた。
