「実はな」
もったいぶったように、ネルヴァルが言葉を止める。空気が張り詰めた、気がした。
「こいつらも人間じゃないんだぜぇ?」
「は……?」
急にどうしたんだこの宇宙人。頭でもおかしくなったんだろうか。だって、あまりに現実離れした話なんだもの。現に、目の前の光景も嘘みたいだけど。
「そんなわけないですよね、フランクさん?」
俺はフランクさんを見た。でも、フランクさんはネルヴァルを見たまま何も言ってくれないんだ。俺はちょっぴり不安になった。
「なんで誰も何も言ってくれないんですか。あ、もしかして失礼なこと言われて怒ってます?」
妙に俺はハイだった。もしかしたら、って可能性を消したくて仕方なかったのさ。だから、口からマシンガンのごとく言葉が飛び出した。
「大丈夫です、俺はそんなの信じてませんから! いきなり宇宙人って言われてもって感じですよ。秘密っていうのは、ひょっとして最高機密機関のことですか? やっぱりそうなんですよね? それなら納得だ。だって、その銃もよくよく考えると昔見たメン・イン・ブラックに出てきた宇宙人退治の武器に似てるもの。ね、そうでしょう?」
「坊主、本当のことなんだ」
「ええ、そうですよね。え……?」
「俺たちは宇宙人なんだ」
「ははは。う、嘘、ですよね?」
乾いた俺の笑い声だけが辺りに響いた。フランクさんも、その横の二人も大真面目な顔をしている。
俺は口を、目を丸く開けたままに、フランクさんをそれはもうよく観察した。
フランクさんたちは、どこからどうみても人間だ。違うところなんて一つもない。でも、ネルヴァルも初めはそうだったし。
もう一度笑い飛ばそうかと思ったけど、出来なくて最終的には口を閉じてしまった。
だって、フランクさんが嘘をつかないような人だってこと、短い時間だけど俺には分かっていたから。
だんだん脈が速くなってきた。
「僕ちゃんには刺激が強かったかな? もう一つ、教えてやる。このお嬢さんだって宇宙人だぜ」
ネルヴァルは、僕弾発言を投下した。
「嘘に決まってるじゃないかそんなのっ」
さすがにこれについては頭に来ちゃったな。
何を言ってるんだこいつは。
夢碧さんのような乙女に対し、なんという許されざる発言!
さっさと否定してくれないフランクさんに俺はちょいとばかしイラッときた。
「なにむきになってるんだよ僕? こいつらと仲間なんだから当然だろう?」
「そんなっ、そんなわけないっ」
今まで一緒にいたクラスメイトが、恋人が宇宙人でした、なんて言われて感情的にならないわけがない。
「夢碧さん、違うよね?」
すぐに否定してくれると思った俺の予想を覆して、夢緑さんは首を振ってくれなかったし、おまけに顔までみてくんない。
なんで、なんでだ!
「おれっちはこんなことも知ってるんだぜぇ? このお嬢さんの秘密をな」
「夢碧さんの、秘密?」
聞きたくないというのに、俺の耳はいつも以上に耳の役目を果たそうとしているようだ。
「そうだ。このお嬢さんはな、自分の星の王子様と結婚したくないから地球まで逃げてきたって話だぜ」
「おい止めるんだ!」
遮ったフランクさんを、ネルヴァルは鼻で笑った。
「何を今さら。今宇宙で一番ホットな話題じゃねぇか。頼りない王子様のお守りが嫌で、地球に逃げてきたんだろ?」
ウソだ。
「そんな訳ないっ、夢碧さんそうだよね?」
俺は視界がじわってしてきた。
もしかしたら、昨日夜遅くまで起きてたせいかもしんない。
俺は、睡眠が足りないと妙に気持ちが弱っちくなって、直ぐ涙が出てきちゃうんだ。
夢碧さんは、口を結んだまんま、下を向いた。脈がどくどくいってる。
「だって僕は夢碧さんと……」
「恋人になったのに」と最後まで言えなかった。
うっかり一人称を戻してしまったけれど、それどころじゃなかった。
「僕のこと、好きって言ってくれたのは嘘だったの?」
恥ずかしそうに僕の名前を呼んでくれた夢碧さん。フランクさんに好きな人だって宣言してくれたときの夢碧さん。
「僕は、王子様の変わりだったっていうのっ?」
いつも僕が見てきた、みんなの憧れの可愛い女の子。
その全てが、全部が全部、作り物だったっていうの?
「ねえ夢碧さん、何か言ってよっ」
「何度言っても無駄さ。ぼくちゃんはこいつに利用されてるんだよ」
うるさいっ、お前なんかじゃない。僕は夢碧さんの口からちゃんと聞きたいんだ。
僕は真っすぐに夢碧さんを見つめた。
でも夢碧さんは、彼女は僕を見てくれなかった。ああ、なんてことだ。くらくらする。
「ギャーハッハッハ」
ネルヴァルの笑い声が頭の中を反響する。
自分を観察するネルヴァルと、夢碧さんの顔が重なる。
夢碧さんの顔が変形し、ボツボツの鱗が体を包み、醜い顔に変貌する。
自分でした最悪な想像に吐き気が込み上げて、咄嗟に口を手で塞いだ。
「こいつぁは傑作だぁっ」
頭がガンガンする。どこに立っているのか分からないくらいに、足元が、世界が回ってる。
恐ろしい考えを読めようと思えば思うほどに、頭の中ではおぞましい絵が広がる。
「んぁああああっ!!」
僕は塞いでいた手を思い切り振り払って立ち上がった。
普段ならなんて事のない動作だったのに、俺は前につんのめった。
「ウゲェエエエエッ!」
ブヨッと頭に変な感触が伝わる。
僕の頭が傍にあったネルヴァルの頭にクリーンヒットしたのだ。
上の方から、頭がぶつかった音とネルヴァルの絶叫が聞こえる。
もしかして、天井まで到達したのかもしんない。
ここで言っておくと、僕はすんごい石頭なのだ。
なんでわかるかっていうと、ずっと昔に友達とうっかり頭をぶつけてしまったとき、僕はなんともなかったけど、向こうだけ綺麗なたんこぶを作ったんだ。
そん時に保険の先生が、こんな石頭今まで見たことないって言ってたもの。
僕は前のめりに膝をついてしまってもう一度立ち上がろうとしたんだけど、どうにも上手くいかずにそのまま床に倒れこんでしまったんだ。
あれ? おかしいな。どこか気分も悪いんだ。でも、夢碧さんに聞かないと。
「ゆめ、みどりさん……」
ネルヴァルの言ってることはホントなの。
噓だって言って。
僕の事どう思ってるのかちゃんと言って。
本当は色々言いたかったけど、馬鹿みたいに「夢碧さん」としか言えなかった。
実際は声も出ているかも分からなかったけど。
ああ、ダメだ。やっぱり世界が回ってる。
意識を手放す前に、「ごめんね、尾長君」という声が聞こえた気がした。
もったいぶったように、ネルヴァルが言葉を止める。空気が張り詰めた、気がした。
「こいつらも人間じゃないんだぜぇ?」
「は……?」
急にどうしたんだこの宇宙人。頭でもおかしくなったんだろうか。だって、あまりに現実離れした話なんだもの。現に、目の前の光景も嘘みたいだけど。
「そんなわけないですよね、フランクさん?」
俺はフランクさんを見た。でも、フランクさんはネルヴァルを見たまま何も言ってくれないんだ。俺はちょっぴり不安になった。
「なんで誰も何も言ってくれないんですか。あ、もしかして失礼なこと言われて怒ってます?」
妙に俺はハイだった。もしかしたら、って可能性を消したくて仕方なかったのさ。だから、口からマシンガンのごとく言葉が飛び出した。
「大丈夫です、俺はそんなの信じてませんから! いきなり宇宙人って言われてもって感じですよ。秘密っていうのは、ひょっとして最高機密機関のことですか? やっぱりそうなんですよね? それなら納得だ。だって、その銃もよくよく考えると昔見たメン・イン・ブラックに出てきた宇宙人退治の武器に似てるもの。ね、そうでしょう?」
「坊主、本当のことなんだ」
「ええ、そうですよね。え……?」
「俺たちは宇宙人なんだ」
「ははは。う、嘘、ですよね?」
乾いた俺の笑い声だけが辺りに響いた。フランクさんも、その横の二人も大真面目な顔をしている。
俺は口を、目を丸く開けたままに、フランクさんをそれはもうよく観察した。
フランクさんたちは、どこからどうみても人間だ。違うところなんて一つもない。でも、ネルヴァルも初めはそうだったし。
もう一度笑い飛ばそうかと思ったけど、出来なくて最終的には口を閉じてしまった。
だって、フランクさんが嘘をつかないような人だってこと、短い時間だけど俺には分かっていたから。
だんだん脈が速くなってきた。
「僕ちゃんには刺激が強かったかな? もう一つ、教えてやる。このお嬢さんだって宇宙人だぜ」
ネルヴァルは、僕弾発言を投下した。
「嘘に決まってるじゃないかそんなのっ」
さすがにこれについては頭に来ちゃったな。
何を言ってるんだこいつは。
夢碧さんのような乙女に対し、なんという許されざる発言!
さっさと否定してくれないフランクさんに俺はちょいとばかしイラッときた。
「なにむきになってるんだよ僕? こいつらと仲間なんだから当然だろう?」
「そんなっ、そんなわけないっ」
今まで一緒にいたクラスメイトが、恋人が宇宙人でした、なんて言われて感情的にならないわけがない。
「夢碧さん、違うよね?」
すぐに否定してくれると思った俺の予想を覆して、夢緑さんは首を振ってくれなかったし、おまけに顔までみてくんない。
なんで、なんでだ!
「おれっちはこんなことも知ってるんだぜぇ? このお嬢さんの秘密をな」
「夢碧さんの、秘密?」
聞きたくないというのに、俺の耳はいつも以上に耳の役目を果たそうとしているようだ。
「そうだ。このお嬢さんはな、自分の星の王子様と結婚したくないから地球まで逃げてきたって話だぜ」
「おい止めるんだ!」
遮ったフランクさんを、ネルヴァルは鼻で笑った。
「何を今さら。今宇宙で一番ホットな話題じゃねぇか。頼りない王子様のお守りが嫌で、地球に逃げてきたんだろ?」
ウソだ。
「そんな訳ないっ、夢碧さんそうだよね?」
俺は視界がじわってしてきた。
もしかしたら、昨日夜遅くまで起きてたせいかもしんない。
俺は、睡眠が足りないと妙に気持ちが弱っちくなって、直ぐ涙が出てきちゃうんだ。
夢碧さんは、口を結んだまんま、下を向いた。脈がどくどくいってる。
「だって僕は夢碧さんと……」
「恋人になったのに」と最後まで言えなかった。
うっかり一人称を戻してしまったけれど、それどころじゃなかった。
「僕のこと、好きって言ってくれたのは嘘だったの?」
恥ずかしそうに僕の名前を呼んでくれた夢碧さん。フランクさんに好きな人だって宣言してくれたときの夢碧さん。
「僕は、王子様の変わりだったっていうのっ?」
いつも僕が見てきた、みんなの憧れの可愛い女の子。
その全てが、全部が全部、作り物だったっていうの?
「ねえ夢碧さん、何か言ってよっ」
「何度言っても無駄さ。ぼくちゃんはこいつに利用されてるんだよ」
うるさいっ、お前なんかじゃない。僕は夢碧さんの口からちゃんと聞きたいんだ。
僕は真っすぐに夢碧さんを見つめた。
でも夢碧さんは、彼女は僕を見てくれなかった。ああ、なんてことだ。くらくらする。
「ギャーハッハッハ」
ネルヴァルの笑い声が頭の中を反響する。
自分を観察するネルヴァルと、夢碧さんの顔が重なる。
夢碧さんの顔が変形し、ボツボツの鱗が体を包み、醜い顔に変貌する。
自分でした最悪な想像に吐き気が込み上げて、咄嗟に口を手で塞いだ。
「こいつぁは傑作だぁっ」
頭がガンガンする。どこに立っているのか分からないくらいに、足元が、世界が回ってる。
恐ろしい考えを読めようと思えば思うほどに、頭の中ではおぞましい絵が広がる。
「んぁああああっ!!」
僕は塞いでいた手を思い切り振り払って立ち上がった。
普段ならなんて事のない動作だったのに、俺は前につんのめった。
「ウゲェエエエエッ!」
ブヨッと頭に変な感触が伝わる。
僕の頭が傍にあったネルヴァルの頭にクリーンヒットしたのだ。
上の方から、頭がぶつかった音とネルヴァルの絶叫が聞こえる。
もしかして、天井まで到達したのかもしんない。
ここで言っておくと、僕はすんごい石頭なのだ。
なんでわかるかっていうと、ずっと昔に友達とうっかり頭をぶつけてしまったとき、僕はなんともなかったけど、向こうだけ綺麗なたんこぶを作ったんだ。
そん時に保険の先生が、こんな石頭今まで見たことないって言ってたもの。
僕は前のめりに膝をついてしまってもう一度立ち上がろうとしたんだけど、どうにも上手くいかずにそのまま床に倒れこんでしまったんだ。
あれ? おかしいな。どこか気分も悪いんだ。でも、夢碧さんに聞かないと。
「ゆめ、みどりさん……」
ネルヴァルの言ってることはホントなの。
噓だって言って。
僕の事どう思ってるのかちゃんと言って。
本当は色々言いたかったけど、馬鹿みたいに「夢碧さん」としか言えなかった。
実際は声も出ているかも分からなかったけど。
ああ、ダメだ。やっぱり世界が回ってる。
意識を手放す前に、「ごめんね、尾長君」という声が聞こえた気がした。
