僕は、一瞬幻聴かと思った。
思わず手を緩めると、夢碧さんが僕の首元に埋めていた頭を動かして、目を合わせてもう一度同じ言葉を繰り返した。
夢碧さんが、生きている。笑ってる。
自然と新しい涙が出た。
「そろそろかしらね」
宇佐美先生が、こちらに向かって言う。
「はい、ありがとうございました先生」
夢碧さんは、宇佐美先生にはっきりとそう言った。
「え?」
ありがとうございましたってどういうこと?
「ごめんね尾長君、これまでのこと先生にも協力してもらってたの」
「ま、そういうことね」
「「「「えぇえええええっ」」」」
僕たちの大絶叫が重なった。
夢碧さんが、ひょっこりと僕の腕から立ち上がって、僕に手を差し伸べた。
何も考えることなく、手を掴んで立ち上がる。
夢碧さんの手はもう温かくなっていた。
「え、あの体は大丈夫なの」
「眠いけど、別にまだ大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
夢碧さんは目じりを下げた。
夢碧さんが生きている。
それだけで、僕のこれまでのごちゃっとした泥沼のような心が、スッと凪いだように静かになっていった。
「お嬢様、これは一体……」
「フランク、すっかり私の作戦に引っかかってくれちゃって。ねー、先生」
「ねー」
あんなに怖かった先生がころっと優しくなっていたのが不思議だ。
「ねえ、尾長君。私、地球にいてもいい宇宙人かな?」
「そ、そんなの当たり前じゃないかっ。ずっといてほしいよ」
僕は必死で言った。夢碧さんは、安心したように微笑んだ。
「良かった……」
「夢碧さん、良かったわね」
「はい」
そう言って、夢碧さんは僕から離れて、こっちを倒れていた蛇のところに歩いていった。
その前にしゃがみ込むと、夢碧さんは蛇の左の目を取った。
「え、それとって大丈夫なの?」
あまりにも普通に撮ったものだから、僕は心配になって宇佐美先生の方を窺い見る。
「心配しなくて大丈夫よ尾長さん、それカメラだから」
「カメラ?」
「尾長君、先生がメドゥーサとでも思ってた?」
「え、まあ。違うの?」
宇佐美先生はおかしそうに笑った。
「やーね、それは最近ポウ星で開発された子供用玩具なのよ。まあ、色々あってお流れになっちゃったけど」
これは、頭に装着して遊ぶものなのよ、と言って宇佐美先生は頭に手をかけて輪っかを外した。
本当だ、すっかりいつもの宇佐美先生だ。ポウ星人の技術力半端ない。
「でもそのおもちゃのカメラが何の役に立つの?」
したり顔で夢碧さんが言った。
「これでね、私の地球滞在の延長を申請するの」
「このカメラで?!」
「そう。信頼できる地球人が、パスの切れる宇宙人の滞在を心から認めてくれた証言を得ることができれば、パスが延長できるの。そのためには、一度宇宙センターまで申請に行かなければならないけどね」
夢碧さんは、きちんと撮れているのを確認しているのか、片目を瞑って蛇の目のカメラを覗き込んだ。
「フランクは私を回収する事で頭がいっぱいで、そんな方法は頭から抜け落ちちゃってたみたいだけど」
「そう、だったんだ」
じゃあ、僕は夢碧さんを助けることはできたのかな。
「うん、ちゃんと残ってる。もう大丈夫だよ」
ああ良かった。夢碧さんは僕に向き合った。
「尾長君、酷く傷つけちゃって本当にごめんなさい」
夢碧さんは、僕に深く頭を下げた。
「あのときね、私ネルヴァルに声が出ないように尾で刺されてしまったの。だから一時的に声が出なくて、何とか声を出したかったんだけどできなかった。だから俯くしかできなかったんだ。今頃言い訳しても、許されないことだけど……。私が地球にいたいってことで利用する形になっちゃって。尾長君、怒ってるよね?」
「確かにさ、好きって言い合った後だったから傷ついたし酷いなとも思ったよ」
夢碧さんは、唇をぎゅっとさせる。僕はもうそんな顔はしてほしくなかった。
「でもね、あんまり感情が上手くできなくて、怒ってるっていうよりも、好きだった子に否定されてとにかく悲しかったんだ。でもそれももういいんだ。だって、夢碧さんの口からほんとのことを聞けたんだから。それに夢碧さんは、他の誰でもじゃなくて、僕といたいから地球に残りたいって思ってくれてるんだよね?」
「そう、私は尾長君といたいの」
「それが聞けただけで嬉しいよ。もう僕、怒ってないよ」
「尾長君……」
僕は両足を揃えてから、かかとをちょっと浮かせてまた地面につけた。
「僕、夢碧さんが好きだよ」
僕は、心から夢碧さんに笑いかけた。
真実がわかって、ひどく安心して、肩の力が抜けた気がしたんだ。
僕は、夢碧さんの本気をフランクさんたちに伝える計画のためだったなら、このくらいなんてことなかったと思えた。
夢碧さんはフランクさんたちの方に向いた。僕も一緒にその方向に体を向ける。
「フランク、私は星には帰らない。なんて言われようと、私はやっぱり尾長君が好きなの。私、尾長君たちとここで生活したい。だからこのまま地球にいさせてください、よろしくお願いしますっ」
夢碧さんに倣って、僕も一緒に頭を下げた。
「お嬢様、私はお嬢様が幸せになるようにと……」
フランクさんが呟くように言った声で、僕たちは再び頭を上げた。
「うん、わかってるよ。フランクが私を大事にして想ってくれてるってこと。でも今の私の幸せは、地球で尾長さんと一緒にいることなの。フランクが不安に思う気持ちもわかる。わがままだって思うけど、でもっ、私は自分の力で幸せを手にしたいの。ね、フランク」
すがるような目で、僕たちはフランクさんを見つめた。
そうしてしばらく見つめ合った後、絞り出すようにフランクさんは言った。
「わかり、ました」
「「やったーーーーっ」」
僕たちは、嬉しくて抱き付き合った。
フランクさんはそう言ったきり、思考を失ったように動かなくなってしまった。ショックだったと思うけど、仕方ない。
夢碧さんが勝利したんだ。
「良かったわね、二人とも」
微笑む先生に、僕たちはお礼を言った。
「さ、そろそろ種明かしをしてもいいんじゃないかしら?」
「あっ、そうですよね」
まだ頭がスピードに追い付ききれない中、夢碧さんは計画のネタバラシを始めた。
「私は、フランクがなんと言っても結婚したく無かった。何より地球に行きたかったの、だからまず……」
「あたしが地球に派遣されたってわけ」
白い木の裏から声が聞こえた。そちらに目を向けると、
「ええ美沙っ?!」
どういうこっちゃ? どういうわけか、美沙が出てきたんだ。
「お嬢様が地球に行きたいっていうから、あたしはまずお嬢様がいつでも来られるように、地球に乗り込んできたわけよ。それが三年生のときね」
なるほど。それで美沙が小学校に転校してきたわけか。ん、ちょっと待った。
「美沙も宇宙人なの?」
「そうだけど何?」
「えぇええええっ」
「何?あたしが宇宙人だとなんか問題でもあるわけ」
「いいえ、ございません」
逆に腑に落ちたよ、とは怖くて言わなかった。
あの馬鹿力、絶対におかしいって思ったものね。
美沙はキッと僕を睨みつけてから、話を再開した。
「で、ある程度状況を整えてからお嬢様を地球に呼んだの。それが次の年ね」
「そうそう。それからは尾長君が知っての通りだけど、私は地球で学校生活を送っていた。だけど、フランクたちがしつこくてねぇ」
「ほんと、誤魔化すのが大変だったんですからね」
「へへ、ごめんごめん」
「まあいいんですけど」
大の男三人は、気まずそうに縮こまっている。
「で、どう切り抜けようかと困ってたときに現れたのが……」
「私だったってわけね。あのときはびっくりしたわ、いきなり『先生、ポウ星人ですか?私も宇宙人なんです』なんて言うんだもの」
「まあある意味賭けだったんですけどね。乗ってくれて良かったです」
「そりゃ面白そうじゃない。一星のお嬢様の訳あり逃亡劇、もうワクワクしちゃうっ」
以外と宇佐美先生も茶目っ気のある人なんだな。
ちょっとイメージ変わったかも。
「だけど、夢碧さんの星と先生の星って仲が悪いんじゃなかったの?」
ぶんぶんとフランクさんが頷いた。
「ああそれね。夢碧さんたちにもお話したけど、近々同盟が結ばれるはずよ」
「え、そうなの?」
「ええ、先生はポウ星の外交担当なのよ?」
宇佐美先生は、得意げに笑った。
「夢碧さんが力を貸してくれたお陰もあってね、何度も私が同盟をかけあったら、上も理解を示してくださったわ。夢碧さん、今度約束したお店行きましょうね」
「もちろんです!打ち上げにピッタリのお店があるんですよ」
「楽しみにしてるわね」
「それでね、宇佐美先生が協力してくれることになって少ししてから、美沙からフランクたちが地球に来た情報を得たの。そこからは大忙し。『ドドン・フー』の皆さんに妨害役を頼んだり、寝る間も惜しんだんだから」
「まさかあそこで派遣費を請求されるとは思わなかったけど」
と、夢碧さんは笑った。
「一つ問題があったのは、『とどのつまり』。マスターがチュン星人だから、フランクが入り浸ってるって言うのはわかってたんだけど、まさかあそこにネルヴァルがいたのは誤算だった。マスターも演出だと思ってたみたい。完全に私の伝達ミスだった」
「美沙、一生の不覚です」
美沙が項垂れる。
「そんなに落ち込まないで美沙。私は大丈夫だったんだから。えっとそれでね、本当はここで宇佐美先生が私を連れ去る予定だったの」
「そ、到着したらびっくり仰天ってね」
「もしかしたらね、尾長君はあんなことになって助けに来てくれないんじゃないかって私思ってた。でも、ちゃんと尾長君は来てくれたね」
僕はどうしようかと思ったけど、本当のことを伝えることにした。
「実際のとこはさ、迷ったりしたんだ。かっこ悪いけど」
「そんなことないよ」と言ってくれるように、夢碧さんは首を横に振った。
「フランクさんが凄く必死だったんだよ。夢碧さんを助けてって。だけど、そこから逃げたりしてさ。でもね、最後は自分で気づいたんだ。やっぱり夢碧さんが好きだって。夢碧さんが望んでなくても、助けたいと思ったんだ」
「尾君、本当にありがとう」
「僕だってありがとうだよ」
「僕、決めました」
と王子が急に言うので、僕はこの期に及んで夢碧さんを取るつもりか、絶対に渡さんぞと身構えた。
「ぼくと結婚を前提にお付き合いしてください」
「王子ぃいいいっ」
思わず手を緩めると、夢碧さんが僕の首元に埋めていた頭を動かして、目を合わせてもう一度同じ言葉を繰り返した。
夢碧さんが、生きている。笑ってる。
自然と新しい涙が出た。
「そろそろかしらね」
宇佐美先生が、こちらに向かって言う。
「はい、ありがとうございました先生」
夢碧さんは、宇佐美先生にはっきりとそう言った。
「え?」
ありがとうございましたってどういうこと?
「ごめんね尾長君、これまでのこと先生にも協力してもらってたの」
「ま、そういうことね」
「「「「えぇえええええっ」」」」
僕たちの大絶叫が重なった。
夢碧さんが、ひょっこりと僕の腕から立ち上がって、僕に手を差し伸べた。
何も考えることなく、手を掴んで立ち上がる。
夢碧さんの手はもう温かくなっていた。
「え、あの体は大丈夫なの」
「眠いけど、別にまだ大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
夢碧さんは目じりを下げた。
夢碧さんが生きている。
それだけで、僕のこれまでのごちゃっとした泥沼のような心が、スッと凪いだように静かになっていった。
「お嬢様、これは一体……」
「フランク、すっかり私の作戦に引っかかってくれちゃって。ねー、先生」
「ねー」
あんなに怖かった先生がころっと優しくなっていたのが不思議だ。
「ねえ、尾長君。私、地球にいてもいい宇宙人かな?」
「そ、そんなの当たり前じゃないかっ。ずっといてほしいよ」
僕は必死で言った。夢碧さんは、安心したように微笑んだ。
「良かった……」
「夢碧さん、良かったわね」
「はい」
そう言って、夢碧さんは僕から離れて、こっちを倒れていた蛇のところに歩いていった。
その前にしゃがみ込むと、夢碧さんは蛇の左の目を取った。
「え、それとって大丈夫なの?」
あまりにも普通に撮ったものだから、僕は心配になって宇佐美先生の方を窺い見る。
「心配しなくて大丈夫よ尾長さん、それカメラだから」
「カメラ?」
「尾長君、先生がメドゥーサとでも思ってた?」
「え、まあ。違うの?」
宇佐美先生はおかしそうに笑った。
「やーね、それは最近ポウ星で開発された子供用玩具なのよ。まあ、色々あってお流れになっちゃったけど」
これは、頭に装着して遊ぶものなのよ、と言って宇佐美先生は頭に手をかけて輪っかを外した。
本当だ、すっかりいつもの宇佐美先生だ。ポウ星人の技術力半端ない。
「でもそのおもちゃのカメラが何の役に立つの?」
したり顔で夢碧さんが言った。
「これでね、私の地球滞在の延長を申請するの」
「このカメラで?!」
「そう。信頼できる地球人が、パスの切れる宇宙人の滞在を心から認めてくれた証言を得ることができれば、パスが延長できるの。そのためには、一度宇宙センターまで申請に行かなければならないけどね」
夢碧さんは、きちんと撮れているのを確認しているのか、片目を瞑って蛇の目のカメラを覗き込んだ。
「フランクは私を回収する事で頭がいっぱいで、そんな方法は頭から抜け落ちちゃってたみたいだけど」
「そう、だったんだ」
じゃあ、僕は夢碧さんを助けることはできたのかな。
「うん、ちゃんと残ってる。もう大丈夫だよ」
ああ良かった。夢碧さんは僕に向き合った。
「尾長君、酷く傷つけちゃって本当にごめんなさい」
夢碧さんは、僕に深く頭を下げた。
「あのときね、私ネルヴァルに声が出ないように尾で刺されてしまったの。だから一時的に声が出なくて、何とか声を出したかったんだけどできなかった。だから俯くしかできなかったんだ。今頃言い訳しても、許されないことだけど……。私が地球にいたいってことで利用する形になっちゃって。尾長君、怒ってるよね?」
「確かにさ、好きって言い合った後だったから傷ついたし酷いなとも思ったよ」
夢碧さんは、唇をぎゅっとさせる。僕はもうそんな顔はしてほしくなかった。
「でもね、あんまり感情が上手くできなくて、怒ってるっていうよりも、好きだった子に否定されてとにかく悲しかったんだ。でもそれももういいんだ。だって、夢碧さんの口からほんとのことを聞けたんだから。それに夢碧さんは、他の誰でもじゃなくて、僕といたいから地球に残りたいって思ってくれてるんだよね?」
「そう、私は尾長君といたいの」
「それが聞けただけで嬉しいよ。もう僕、怒ってないよ」
「尾長君……」
僕は両足を揃えてから、かかとをちょっと浮かせてまた地面につけた。
「僕、夢碧さんが好きだよ」
僕は、心から夢碧さんに笑いかけた。
真実がわかって、ひどく安心して、肩の力が抜けた気がしたんだ。
僕は、夢碧さんの本気をフランクさんたちに伝える計画のためだったなら、このくらいなんてことなかったと思えた。
夢碧さんはフランクさんたちの方に向いた。僕も一緒にその方向に体を向ける。
「フランク、私は星には帰らない。なんて言われようと、私はやっぱり尾長君が好きなの。私、尾長君たちとここで生活したい。だからこのまま地球にいさせてください、よろしくお願いしますっ」
夢碧さんに倣って、僕も一緒に頭を下げた。
「お嬢様、私はお嬢様が幸せになるようにと……」
フランクさんが呟くように言った声で、僕たちは再び頭を上げた。
「うん、わかってるよ。フランクが私を大事にして想ってくれてるってこと。でも今の私の幸せは、地球で尾長さんと一緒にいることなの。フランクが不安に思う気持ちもわかる。わがままだって思うけど、でもっ、私は自分の力で幸せを手にしたいの。ね、フランク」
すがるような目で、僕たちはフランクさんを見つめた。
そうしてしばらく見つめ合った後、絞り出すようにフランクさんは言った。
「わかり、ました」
「「やったーーーーっ」」
僕たちは、嬉しくて抱き付き合った。
フランクさんはそう言ったきり、思考を失ったように動かなくなってしまった。ショックだったと思うけど、仕方ない。
夢碧さんが勝利したんだ。
「良かったわね、二人とも」
微笑む先生に、僕たちはお礼を言った。
「さ、そろそろ種明かしをしてもいいんじゃないかしら?」
「あっ、そうですよね」
まだ頭がスピードに追い付ききれない中、夢碧さんは計画のネタバラシを始めた。
「私は、フランクがなんと言っても結婚したく無かった。何より地球に行きたかったの、だからまず……」
「あたしが地球に派遣されたってわけ」
白い木の裏から声が聞こえた。そちらに目を向けると、
「ええ美沙っ?!」
どういうこっちゃ? どういうわけか、美沙が出てきたんだ。
「お嬢様が地球に行きたいっていうから、あたしはまずお嬢様がいつでも来られるように、地球に乗り込んできたわけよ。それが三年生のときね」
なるほど。それで美沙が小学校に転校してきたわけか。ん、ちょっと待った。
「美沙も宇宙人なの?」
「そうだけど何?」
「えぇええええっ」
「何?あたしが宇宙人だとなんか問題でもあるわけ」
「いいえ、ございません」
逆に腑に落ちたよ、とは怖くて言わなかった。
あの馬鹿力、絶対におかしいって思ったものね。
美沙はキッと僕を睨みつけてから、話を再開した。
「で、ある程度状況を整えてからお嬢様を地球に呼んだの。それが次の年ね」
「そうそう。それからは尾長君が知っての通りだけど、私は地球で学校生活を送っていた。だけど、フランクたちがしつこくてねぇ」
「ほんと、誤魔化すのが大変だったんですからね」
「へへ、ごめんごめん」
「まあいいんですけど」
大の男三人は、気まずそうに縮こまっている。
「で、どう切り抜けようかと困ってたときに現れたのが……」
「私だったってわけね。あのときはびっくりしたわ、いきなり『先生、ポウ星人ですか?私も宇宙人なんです』なんて言うんだもの」
「まあある意味賭けだったんですけどね。乗ってくれて良かったです」
「そりゃ面白そうじゃない。一星のお嬢様の訳あり逃亡劇、もうワクワクしちゃうっ」
以外と宇佐美先生も茶目っ気のある人なんだな。
ちょっとイメージ変わったかも。
「だけど、夢碧さんの星と先生の星って仲が悪いんじゃなかったの?」
ぶんぶんとフランクさんが頷いた。
「ああそれね。夢碧さんたちにもお話したけど、近々同盟が結ばれるはずよ」
「え、そうなの?」
「ええ、先生はポウ星の外交担当なのよ?」
宇佐美先生は、得意げに笑った。
「夢碧さんが力を貸してくれたお陰もあってね、何度も私が同盟をかけあったら、上も理解を示してくださったわ。夢碧さん、今度約束したお店行きましょうね」
「もちろんです!打ち上げにピッタリのお店があるんですよ」
「楽しみにしてるわね」
「それでね、宇佐美先生が協力してくれることになって少ししてから、美沙からフランクたちが地球に来た情報を得たの。そこからは大忙し。『ドドン・フー』の皆さんに妨害役を頼んだり、寝る間も惜しんだんだから」
「まさかあそこで派遣費を請求されるとは思わなかったけど」
と、夢碧さんは笑った。
「一つ問題があったのは、『とどのつまり』。マスターがチュン星人だから、フランクが入り浸ってるって言うのはわかってたんだけど、まさかあそこにネルヴァルがいたのは誤算だった。マスターも演出だと思ってたみたい。完全に私の伝達ミスだった」
「美沙、一生の不覚です」
美沙が項垂れる。
「そんなに落ち込まないで美沙。私は大丈夫だったんだから。えっとそれでね、本当はここで宇佐美先生が私を連れ去る予定だったの」
「そ、到着したらびっくり仰天ってね」
「もしかしたらね、尾長君はあんなことになって助けに来てくれないんじゃないかって私思ってた。でも、ちゃんと尾長君は来てくれたね」
僕はどうしようかと思ったけど、本当のことを伝えることにした。
「実際のとこはさ、迷ったりしたんだ。かっこ悪いけど」
「そんなことないよ」と言ってくれるように、夢碧さんは首を横に振った。
「フランクさんが凄く必死だったんだよ。夢碧さんを助けてって。だけど、そこから逃げたりしてさ。でもね、最後は自分で気づいたんだ。やっぱり夢碧さんが好きだって。夢碧さんが望んでなくても、助けたいと思ったんだ」
「尾君、本当にありがとう」
「僕だってありがとうだよ」
「僕、決めました」
と王子が急に言うので、僕はこの期に及んで夢碧さんを取るつもりか、絶対に渡さんぞと身構えた。
「ぼくと結婚を前提にお付き合いしてください」
「王子ぃいいいっ」
