「えぇっ、宇佐美先生?!」
なにゆえここに先生が? でもこのよく磨かれた赤眼鏡、間違いなく宇佐美先生だ。
木の後ろから誰も出てこないことを確認してほっとして息をつく。
「びっくりしたー。どうして先生がこんなところに??」
「尾長君だめじゃない、心配をかけちゃ」
「へ?」
何が?
「お母さんから学校に連絡があったわよ。尾長君が家から飛び出したきり戻ってこないって」
「ええっ、今何時ですか?」
「もうとっくに帰る時間よ」
「ええっ、どうしよう」
ワープの中では時間の感覚なんて全くわからない。そんな日が落ちるほどの時間を中で過ごしていたとは。
「先生はどうやってここまで来られたんですか?」
「あそこよ」
そう言って、宇佐美先生は現れた方向を指さした。よく見ると、大人一人が通れそうなくらいの穴がワープに空いていた。
こちらの白い空間から外の渦模様が見え隠れしている。
直ぐに森と繋がっているみたいではないみたいだ。よく耳を澄ませると、そこから唸るような音が聞こえた。さっき僕が声だと思ったのは、この隙間風だったんだ。
「閉じる前に早くここから出ましょう」
「あ、でも」
「夢碧さんなら大丈夫、私がなんとかするから」
ヒュンッ!
「わぁあああっ」
「坊主から離れるんだ」
僕と先生の間を、黄色い光線が走った。光は僕たちを通過すると、白い木に当たって消滅した。
「フランクさんっ」
フランクさんは、巻き付いていたリングを無事に取ったみたいだ。フランクさんは、今ままで一番真剣な表情をしながら、宇佐美先生にネルヴァルの時と同じ銃を向けている。
「フランクさん、この人は僕の先生ですよ?」
「チッ」
「宇佐美先生……?」
先生は、見たことがないくらい凄い形相をしていた。
僕が叱られたときなんかとは比べものにならないくらいの。
宇佐美先生はゆっくりと木の方に後退した。
「フランクさん、先生は僕を探しに来てくれたんです」
階段をゆっくりと上ってくるフランクさんに、僕は言った。
「なるほど、な。坊主、おかしいと思わないか?」
「えっ?」
「なぜ担任の先生がこんなところにいるんだ。いや、なぜ入ってこられたんだ?」
「それは……」
フランクさんは、宇佐美先生から目を逸らさずに僕に言った。
「なぜ人間の彼女がここに来られる?」
そう、か。僕たちはポウ星人の体液を体中に塗っているから、ポウ星人の作ったワープの中に入る事が出来たんだ。
もしポウ星人以外のものが入ろうとすれば、ワープから弾き飛ばされるはずだもの。
それにだ。
先生はさっき確かに夢碧さんと言った。
先生は、夢碧さんがここにいるなんて知るはずもないのに。
「じゃあ先生は……」
「フッフッフッ」
宇佐美先生の髪が蛇に変わって、そのうちの一匹がフランクさんの腕に嚙みついた。
「うぅっ」とフランクさんが呻いて銃を離す。宇佐美先生の姿は、昔本で見たメドゥーサみたいだった。
「フランクさんっ」
「くそっ」
フランクさんは噛まれた右腕を押さえつけた。
幸い血は出てないみたいだ。
宇佐美先生は、不敵に笑った。
「別に毒なんてないから安心して」
「先生は、宇宙人だったんですか?」
「フフ、そうですよ尾長さん」
ショックだった。まさか自分の担任の先生が宇宙人で、こんなにも簡単に相手を傷つけるようなことをする人なんて。
「何を企んでいる貴様っ」
「そうカッカしないで護衛係さん。ねえ知ってた尾長さん? 夢碧さんのこと」
「宇宙人だって、こと?」
「それもあるけど、彼女自身の事よ」
どういうこと?
「夢碧さん、このままだと危ないのよ」
え、と僕は咄嗟にフランクさんを見た。
フランクさんは俯いて何も言わない。
「ねえフランクさん教えてよっ、夢碧さんが危ないって何?」
「お嬢様の命が……」
フランクは、言葉に詰まった。
「なに? 夢碧さんの命ってどういうこと?」
「もう、お嬢様は地球にいられる限界にいるんだ」
「我々宇宙人は目的がないと長く地球に滞在できないの、尾長さん。正規の調査員以外はね。彼らが調べるのは、地球の情勢、食料や軍事力まで様々。期間を延ばすためには、一年に一度しかる場所に行って許可を貰いに行かなければならない。地球でいう、パスポートの更新みたいなものよ。だけど、別に彼女は地球の調査団でもなんでもない。そうでしょ?」
フランクさんは、苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。
「お嬢様は、どういった方法を使ったのかはわからないが、どういうわけか二年分は更新できていたようなんだ。だが、流石に三年目はない。例え調査団でも二年に一度は必ず星に帰らなければならないんだ。しかし、お嬢様はそれを拒否した」
「拒否すると、どうなっちゃうの?」
「三年が近づくと、時々眠気に襲われるようになる」
夢碧さんが時折眠そうにしてたのを思い出した。
でもそれは、単純に夢碧さんが珍しく夜更かしをしたとか、そういうのだと思っていた。
「徐々にその感覚は短くなり、宇宙人は力を蓄えるために緑のあるところにいくんだ。我々チュン星の場合は、花から生命のエネルギーを分けてもらうんだ。やがてそれさえもできなくなると、目を瞑ったまま冬眠状態のようになる。実質それは死んだことと同義だ。そのうち体が動かなくなれば、自然と体は消えていくのだから」
「そんなっ」
「残酷かもしれないが、これが事実だ。最後には自然に帰り、残った自分の体を養分に変えて自然に恩返しをするんだ。俺たちは、そういう生き方をしている。けど、お嬢様にはまだ早すぎる。だからこんなことで失ってはならないと俺たちは、とにかく必死だった。しかし、もう起き上がれないほどタイムリミットが迫っているとは……」
何にも僕は知らなかった。
フランクさんたちの生き方も、フランクさんたち宇宙人のルールも。
夢碧さんは、少しも先がないようなそぶりを見せなかった。そんなことになっていたなんて。
「ねえ、どうやったら夢碧さんを助けられるの?」
「それは、」
「一体どうなってる?」
フランクさんの言葉を遮ったのは、サドだった。
「お前どうして来たっ」
「お前らがあまりにも遅かったからだろうがっ」
負けじとサドも声を張る。
「お仲間さんかしら?ちょうどいいわ、交換条件をしましょう?」
「なんだと?」
「私なら、彼女を助けることができるわ」
「夢碧さんを助けられるの?」
僕の問いに宇佐美先生は頷いた。
「そんなこと信じられるかっ」
「あら、チュン星のあなた方が我々の力を疑うというの? 軍事力も技術力もあることを、あなたたちは理解しているはず。大切なお嬢様が助かるのよ」
フランクさんたちは否定しない。
宇佐美先生の星は、きっと凄い力を持っているんだろう。
宇佐美先生の堂々とした声が響き渡る。
「長い間、ポウ星人とチュン星は敵対同士にあった。互いに傷つけあってきた。表面上の平和はまやかしに過ぎない。だが今、我々は歩み寄らなければならないのです。そのための条件よ」
「条件は、なんだ?」
「おいフランクッ」
「それは、このお嬢様がわが星に帰属すること」
「何っ」
「どういうこと?」
「簡単にいうと、お嬢様が向こうの星のもんに嫁ぐってことだ」
なんで、どうして夢碧さんはこうも本人のいないところで話を勧められなきゃならないんだ。
「そんな条件をのむとでも、貴様は思っているのか。そうなれば、お嬢様は二度とチュン星の大地を踏めなくなるんだぞ」
「そうね。でもそうすれば彼女の命は助かり、脅威である我々も恐れる必要はなくなる。それってウィンウインじゃない?」
「もし、その条件を断ったら?」
「そうね……」
「うゎあああ、蛇だ」
と呑気な声を上げて現れたタタンを、宇佐美先生は蛇で掴んだまま空に高く上げた。
「あーーーーっ」
「「王子っ」」
とフランクさんとサドが叫ぶものだから、僕はびっくりしてしまった。
「王子だって?!」
あ、あのタタンが?タタンさんが?
「王子を離せっ」「卑怯だぞ」
「卑怯?私はただ返事を待っているの。時間がかかるのが嫌いだから、早く話を進めようとしているだけよ」
「仮にも王子だぞポウ星人。それがどういうことかわかってるのか」
「そう、これがねぇ」
「すごい高いよぉおおおお」とタタンの声が遠くから聞こえる。
フランクさんは眉間を抑えた。精神的に相当参ってそうだ。
「タタンさんって王子様だったの?」
と、僕はぼんやりと上を見上げるサドに聞いた。
「あ?……ああ。あれは、あの方はいつもああで、オレは王子っていうことをてっきり忘れちまうがな」
「はぁ」
僕が二人に会ってから、一度だってタタンに対しての尊敬を欠片も感じなかったけど、怒られそうだがら僕は黙っといた。
でも、王子っぽくないっていうのは何か納得できるな。
「さっさと条件を飲んでくれるかしら?」
「いやっ、それは無理だ。絶対にダメだ」
フランクさんは胃を抑えながら、自分に言い聞かせるように言った。
「うん、どうしたってダメだ。俺たちには、王子を結婚させなければならないという義務がある」
「諦めれば?」
「そりゃっ、できることなら俺だってそうしたい。いっそのこと、地球に置いていって知らぬふりをしたい!」
力強くフランクさんは言った。
僕、何だか王子様がかわいそうになってきたよ。
「でも無理だ。星の未来がかかってるんだ。だからあのポンコツには、支えてくれるしっかりとした方がいなければならない。そう、そうだ! わかったか、嬢様は返してもらわねばならないのだ、ハハハ」
僕は、心の底からイライラしてきた。
例えるならば、何も無いとこで転んだり、食べかけのアイスを落としたり、勘違いされて怒られたりして、誰にもそれが伝えられなくて、全て積もり積もって爆発しそうになってる状態さ。
「そう、そういうことならば。……っ」
突然、宇佐美先生が立ち眩みをしたように体制を崩した。
なにゆえここに先生が? でもこのよく磨かれた赤眼鏡、間違いなく宇佐美先生だ。
木の後ろから誰も出てこないことを確認してほっとして息をつく。
「びっくりしたー。どうして先生がこんなところに??」
「尾長君だめじゃない、心配をかけちゃ」
「へ?」
何が?
「お母さんから学校に連絡があったわよ。尾長君が家から飛び出したきり戻ってこないって」
「ええっ、今何時ですか?」
「もうとっくに帰る時間よ」
「ええっ、どうしよう」
ワープの中では時間の感覚なんて全くわからない。そんな日が落ちるほどの時間を中で過ごしていたとは。
「先生はどうやってここまで来られたんですか?」
「あそこよ」
そう言って、宇佐美先生は現れた方向を指さした。よく見ると、大人一人が通れそうなくらいの穴がワープに空いていた。
こちらの白い空間から外の渦模様が見え隠れしている。
直ぐに森と繋がっているみたいではないみたいだ。よく耳を澄ませると、そこから唸るような音が聞こえた。さっき僕が声だと思ったのは、この隙間風だったんだ。
「閉じる前に早くここから出ましょう」
「あ、でも」
「夢碧さんなら大丈夫、私がなんとかするから」
ヒュンッ!
「わぁあああっ」
「坊主から離れるんだ」
僕と先生の間を、黄色い光線が走った。光は僕たちを通過すると、白い木に当たって消滅した。
「フランクさんっ」
フランクさんは、巻き付いていたリングを無事に取ったみたいだ。フランクさんは、今ままで一番真剣な表情をしながら、宇佐美先生にネルヴァルの時と同じ銃を向けている。
「フランクさん、この人は僕の先生ですよ?」
「チッ」
「宇佐美先生……?」
先生は、見たことがないくらい凄い形相をしていた。
僕が叱られたときなんかとは比べものにならないくらいの。
宇佐美先生はゆっくりと木の方に後退した。
「フランクさん、先生は僕を探しに来てくれたんです」
階段をゆっくりと上ってくるフランクさんに、僕は言った。
「なるほど、な。坊主、おかしいと思わないか?」
「えっ?」
「なぜ担任の先生がこんなところにいるんだ。いや、なぜ入ってこられたんだ?」
「それは……」
フランクさんは、宇佐美先生から目を逸らさずに僕に言った。
「なぜ人間の彼女がここに来られる?」
そう、か。僕たちはポウ星人の体液を体中に塗っているから、ポウ星人の作ったワープの中に入る事が出来たんだ。
もしポウ星人以外のものが入ろうとすれば、ワープから弾き飛ばされるはずだもの。
それにだ。
先生はさっき確かに夢碧さんと言った。
先生は、夢碧さんがここにいるなんて知るはずもないのに。
「じゃあ先生は……」
「フッフッフッ」
宇佐美先生の髪が蛇に変わって、そのうちの一匹がフランクさんの腕に嚙みついた。
「うぅっ」とフランクさんが呻いて銃を離す。宇佐美先生の姿は、昔本で見たメドゥーサみたいだった。
「フランクさんっ」
「くそっ」
フランクさんは噛まれた右腕を押さえつけた。
幸い血は出てないみたいだ。
宇佐美先生は、不敵に笑った。
「別に毒なんてないから安心して」
「先生は、宇宙人だったんですか?」
「フフ、そうですよ尾長さん」
ショックだった。まさか自分の担任の先生が宇宙人で、こんなにも簡単に相手を傷つけるようなことをする人なんて。
「何を企んでいる貴様っ」
「そうカッカしないで護衛係さん。ねえ知ってた尾長さん? 夢碧さんのこと」
「宇宙人だって、こと?」
「それもあるけど、彼女自身の事よ」
どういうこと?
「夢碧さん、このままだと危ないのよ」
え、と僕は咄嗟にフランクさんを見た。
フランクさんは俯いて何も言わない。
「ねえフランクさん教えてよっ、夢碧さんが危ないって何?」
「お嬢様の命が……」
フランクは、言葉に詰まった。
「なに? 夢碧さんの命ってどういうこと?」
「もう、お嬢様は地球にいられる限界にいるんだ」
「我々宇宙人は目的がないと長く地球に滞在できないの、尾長さん。正規の調査員以外はね。彼らが調べるのは、地球の情勢、食料や軍事力まで様々。期間を延ばすためには、一年に一度しかる場所に行って許可を貰いに行かなければならない。地球でいう、パスポートの更新みたいなものよ。だけど、別に彼女は地球の調査団でもなんでもない。そうでしょ?」
フランクさんは、苦虫を嚙み潰したような顔で頷いた。
「お嬢様は、どういった方法を使ったのかはわからないが、どういうわけか二年分は更新できていたようなんだ。だが、流石に三年目はない。例え調査団でも二年に一度は必ず星に帰らなければならないんだ。しかし、お嬢様はそれを拒否した」
「拒否すると、どうなっちゃうの?」
「三年が近づくと、時々眠気に襲われるようになる」
夢碧さんが時折眠そうにしてたのを思い出した。
でもそれは、単純に夢碧さんが珍しく夜更かしをしたとか、そういうのだと思っていた。
「徐々にその感覚は短くなり、宇宙人は力を蓄えるために緑のあるところにいくんだ。我々チュン星の場合は、花から生命のエネルギーを分けてもらうんだ。やがてそれさえもできなくなると、目を瞑ったまま冬眠状態のようになる。実質それは死んだことと同義だ。そのうち体が動かなくなれば、自然と体は消えていくのだから」
「そんなっ」
「残酷かもしれないが、これが事実だ。最後には自然に帰り、残った自分の体を養分に変えて自然に恩返しをするんだ。俺たちは、そういう生き方をしている。けど、お嬢様にはまだ早すぎる。だからこんなことで失ってはならないと俺たちは、とにかく必死だった。しかし、もう起き上がれないほどタイムリミットが迫っているとは……」
何にも僕は知らなかった。
フランクさんたちの生き方も、フランクさんたち宇宙人のルールも。
夢碧さんは、少しも先がないようなそぶりを見せなかった。そんなことになっていたなんて。
「ねえ、どうやったら夢碧さんを助けられるの?」
「それは、」
「一体どうなってる?」
フランクさんの言葉を遮ったのは、サドだった。
「お前どうして来たっ」
「お前らがあまりにも遅かったからだろうがっ」
負けじとサドも声を張る。
「お仲間さんかしら?ちょうどいいわ、交換条件をしましょう?」
「なんだと?」
「私なら、彼女を助けることができるわ」
「夢碧さんを助けられるの?」
僕の問いに宇佐美先生は頷いた。
「そんなこと信じられるかっ」
「あら、チュン星のあなた方が我々の力を疑うというの? 軍事力も技術力もあることを、あなたたちは理解しているはず。大切なお嬢様が助かるのよ」
フランクさんたちは否定しない。
宇佐美先生の星は、きっと凄い力を持っているんだろう。
宇佐美先生の堂々とした声が響き渡る。
「長い間、ポウ星人とチュン星は敵対同士にあった。互いに傷つけあってきた。表面上の平和はまやかしに過ぎない。だが今、我々は歩み寄らなければならないのです。そのための条件よ」
「条件は、なんだ?」
「おいフランクッ」
「それは、このお嬢様がわが星に帰属すること」
「何っ」
「どういうこと?」
「簡単にいうと、お嬢様が向こうの星のもんに嫁ぐってことだ」
なんで、どうして夢碧さんはこうも本人のいないところで話を勧められなきゃならないんだ。
「そんな条件をのむとでも、貴様は思っているのか。そうなれば、お嬢様は二度とチュン星の大地を踏めなくなるんだぞ」
「そうね。でもそうすれば彼女の命は助かり、脅威である我々も恐れる必要はなくなる。それってウィンウインじゃない?」
「もし、その条件を断ったら?」
「そうね……」
「うゎあああ、蛇だ」
と呑気な声を上げて現れたタタンを、宇佐美先生は蛇で掴んだまま空に高く上げた。
「あーーーーっ」
「「王子っ」」
とフランクさんとサドが叫ぶものだから、僕はびっくりしてしまった。
「王子だって?!」
あ、あのタタンが?タタンさんが?
「王子を離せっ」「卑怯だぞ」
「卑怯?私はただ返事を待っているの。時間がかかるのが嫌いだから、早く話を進めようとしているだけよ」
「仮にも王子だぞポウ星人。それがどういうことかわかってるのか」
「そう、これがねぇ」
「すごい高いよぉおおおお」とタタンの声が遠くから聞こえる。
フランクさんは眉間を抑えた。精神的に相当参ってそうだ。
「タタンさんって王子様だったの?」
と、僕はぼんやりと上を見上げるサドに聞いた。
「あ?……ああ。あれは、あの方はいつもああで、オレは王子っていうことをてっきり忘れちまうがな」
「はぁ」
僕が二人に会ってから、一度だってタタンに対しての尊敬を欠片も感じなかったけど、怒られそうだがら僕は黙っといた。
でも、王子っぽくないっていうのは何か納得できるな。
「さっさと条件を飲んでくれるかしら?」
「いやっ、それは無理だ。絶対にダメだ」
フランクさんは胃を抑えながら、自分に言い聞かせるように言った。
「うん、どうしたってダメだ。俺たちには、王子を結婚させなければならないという義務がある」
「諦めれば?」
「そりゃっ、できることなら俺だってそうしたい。いっそのこと、地球に置いていって知らぬふりをしたい!」
力強くフランクさんは言った。
僕、何だか王子様がかわいそうになってきたよ。
「でも無理だ。星の未来がかかってるんだ。だからあのポンコツには、支えてくれるしっかりとした方がいなければならない。そう、そうだ! わかったか、嬢様は返してもらわねばならないのだ、ハハハ」
僕は、心の底からイライラしてきた。
例えるならば、何も無いとこで転んだり、食べかけのアイスを落としたり、勘違いされて怒られたりして、誰にもそれが伝えられなくて、全て積もり積もって爆発しそうになってる状態さ。
「そう、そういうことならば。……っ」
突然、宇佐美先生が立ち眩みをしたように体制を崩した。
