「あの、ほんとのほんとに大丈夫なんですかこれ」
「あぁ?知らねーよ」
自分の髪を撫でながら言うサドは、ご機嫌斜めだ。
どうやらご自慢の髪にまで液体をつけるのが気に食わなかったらしい。
僕たちは、『とどのつまり』の近くの森に移動していた。
ポウ星人は、人気のないところに拠点を持っているらしかった。
僕たちは、皆一様に壺の中身を体中に塗りたくって相当匂いが酷いだろうから、ある意味有難かった。
だけど、もはや鼻がおかしくなったのか、自分ではもう臭いを感じなくなっていた。
液体は、塗ったときこそ最初は緑色で本当に宇宙人になったみたいだったけど、時間が経った今ではほとんど無色透明になっている。不思議なもんだ。
「大丈夫、なはずだ」
フランクさんは、緊張した面持ちで言った。
なぜ、砂の城の男の子があんなものを持っていたのかは知らないけど、あの子も宇宙人だったのかもという結論でまとまった。
考えようとしたら、サドに今はそんなことはどうでもいいと言われたからだ。
まあ、今は時間が惜しいからその通りかもしれない。
「もう少し先だ」
フランクさん、僕、サド、タタンの順番で僕らは歩いていた。
ここまで森の奥は僕も来たことがない。
無言でいるのも気まずいので、僕は気になっていたことを聞いてみた。
「あのー失礼ですが、ちなみにフランクさんたちもその、こういう感じの匂いなんですか?」
「はぁ? 舐めてんのか。陽だまりの野原の匂いだよ、失礼極まりないわっ」
すかさずサドに否定された。ほんとうかな?
「例えがわかりにくいですよねー」
「うるさいぞタタンッ」
「うぇええーん」
「お前たち、もう少し静かにしろ。敵の拠点に行くんだぞ」
そのあとは、僕たちは黙々と歩き続けた。
歩けば歩くほど、辺りは暗くなっていった。
木が多くなっているのもあるけど、日が落ちてきているのかもしれなかった。
頭の中であれこれ考えていると、フランクさんが足を止めた。
「ここだ」
一見すると何もなっていないけど、フランクさんが言うのならそうなんだと思った。
「いくぞ」
僕は黙って頷いた。いよいよだ。
「誰もいませんねー」
タタンのお気楽な声が辺りに響いた。
僕らの気合の入れようとは反対に、誰も拠点にはいなかった。
木が生えてるだけなのだ。
どんなのが出てくるのかってビクビクしてたから、ある意味ではラッキーかもしれない。
「ここら辺の辺りだと思うんだが」フランクさんは辺りを見回した。
「今の時間は必要な人員以外は拠点を空けているのかもしれん」
と、サド。
「じゃあ液塗ったのって意味無いんじゃないですか?」
「そんなことはない。奴らは匂いに敏感だからな。違う大衆を放ってるやつが出入りすれば直ぐに駆けつけるはずだ」
「それならいいんですけどね」
「じゃなきゃやってられっかよ。それに、ワープには同じ種族のものしか入れないからな」
「ワープ?」
僕の疑問に、「ああ」と珍しくサドは冷静に答えた。
「地球から外部の空間に繋いでいるポイントがあるはずなんだ。いわゆる異空間ってやつだ。その中の方が、地球よりも快適に過ごせる。もし自分ら以外のやつが入ったら、勝手に弾き出してくれるしな」
「へーえ、異空間か」
異空間っていうとわくわくするな。
僕は、宇宙みたいなイメージをした。
「そのもとっていうのはどういうところにあるんですか?」
「移動しないものに繋いでいることが多いな」とフランクさんが繋ぐ。
「ここだと木とかですか?」
「そうだな。触ると空間が歪むような感覚があるはずだ」
「とにかく探してみましょう」
タタンの声を皮切りに、僕らは木に囲まれた森を捜索し始めた。
片っ端から木を触っていくけど、ごつごつした木の皮が当たるだけで、特に何も起こらない。
「うーんないなー」
「これ食べますか?」
ニコニコとタタンが包みに入ったお菓子を渡してきた。
「これ何ですか?」
「チェリーボンボンです」
「あ、結構です」
考えるだけで酔ってきそう。
「そうですか、美味しいんだけどなー」
モグモグとタタンは咀嚼して、またバッグの中を漁った。
全部チョコが入っているらしい。
「おいお前、あんまし遠くにいくなよ」
「あ、はい」
その後夢中になっていると、サドが声を掛けてくれた。
お礼を言ったら、「別に」だって。思ったよりいい人なのかもしんないな。
と言いつつも、集中力っていうのは恐ろしいもんで、どんどん僕は奥に進んでいった。
それで、一本ずつ気を確かめていたとき、
「あっ」
僕は思わず木から手を離した。
離した、というのとはちょっと違うな。
それは「無」だった。
触れている感覚も何もしないんだ。
僕は、もう一度手を入れた。今度はもう少し深く。途端、手に何か絡みついた。
「誰かっ」
と、僕は叫んだ。
「どうした坊主!」
サドの声だ。
「助けてっ、手が変なんだ」
右手では耐え切れずに、左手も「無」に突っ込んだ。
「坊主ッ」
「サドさん、手が中にっ」
「わかってる!」
サドが片手で僕の手を掴むと、僕の手のひらから、紫のシャボン玉のような色をしたものが、チーズのように伸びている。
徐々にそれは、手から腕を包み込み、顔へと侵食してくる。
「ポイントだ。おいフランクッ、タタンッ」
シャボンが大きくなって、体が飲み込まれていく。二人が駆けつけたときには、僕たちの体全体がシャボンに包み込まれていた。
「フランクッ」
タタンをおぶさって走ってきたフランクさんの手を、サドは勢いよく引っ張った。
二人がシャボンに吸収された途端、シャボンがピシャッと体に張り付く。呼吸が難しくて苦しくなった。
次いでどこかに引きずり込まれる感覚がした。
「うぉおおおおっ」
とにかく物凄いスピード。
とてつもなく大きなブランコを立ちこぎしていて、限界の高さまで上がったら投げ出された感じだ。
おまけにプロペラみたいに体まで回ってるときた。ぐにゃぐにゃした世界のスピードに耐えられずに、僕は目を瞑った。
「あぁ?知らねーよ」
自分の髪を撫でながら言うサドは、ご機嫌斜めだ。
どうやらご自慢の髪にまで液体をつけるのが気に食わなかったらしい。
僕たちは、『とどのつまり』の近くの森に移動していた。
ポウ星人は、人気のないところに拠点を持っているらしかった。
僕たちは、皆一様に壺の中身を体中に塗りたくって相当匂いが酷いだろうから、ある意味有難かった。
だけど、もはや鼻がおかしくなったのか、自分ではもう臭いを感じなくなっていた。
液体は、塗ったときこそ最初は緑色で本当に宇宙人になったみたいだったけど、時間が経った今ではほとんど無色透明になっている。不思議なもんだ。
「大丈夫、なはずだ」
フランクさんは、緊張した面持ちで言った。
なぜ、砂の城の男の子があんなものを持っていたのかは知らないけど、あの子も宇宙人だったのかもという結論でまとまった。
考えようとしたら、サドに今はそんなことはどうでもいいと言われたからだ。
まあ、今は時間が惜しいからその通りかもしれない。
「もう少し先だ」
フランクさん、僕、サド、タタンの順番で僕らは歩いていた。
ここまで森の奥は僕も来たことがない。
無言でいるのも気まずいので、僕は気になっていたことを聞いてみた。
「あのー失礼ですが、ちなみにフランクさんたちもその、こういう感じの匂いなんですか?」
「はぁ? 舐めてんのか。陽だまりの野原の匂いだよ、失礼極まりないわっ」
すかさずサドに否定された。ほんとうかな?
「例えがわかりにくいですよねー」
「うるさいぞタタンッ」
「うぇええーん」
「お前たち、もう少し静かにしろ。敵の拠点に行くんだぞ」
そのあとは、僕たちは黙々と歩き続けた。
歩けば歩くほど、辺りは暗くなっていった。
木が多くなっているのもあるけど、日が落ちてきているのかもしれなかった。
頭の中であれこれ考えていると、フランクさんが足を止めた。
「ここだ」
一見すると何もなっていないけど、フランクさんが言うのならそうなんだと思った。
「いくぞ」
僕は黙って頷いた。いよいよだ。
「誰もいませんねー」
タタンのお気楽な声が辺りに響いた。
僕らの気合の入れようとは反対に、誰も拠点にはいなかった。
木が生えてるだけなのだ。
どんなのが出てくるのかってビクビクしてたから、ある意味ではラッキーかもしれない。
「ここら辺の辺りだと思うんだが」フランクさんは辺りを見回した。
「今の時間は必要な人員以外は拠点を空けているのかもしれん」
と、サド。
「じゃあ液塗ったのって意味無いんじゃないですか?」
「そんなことはない。奴らは匂いに敏感だからな。違う大衆を放ってるやつが出入りすれば直ぐに駆けつけるはずだ」
「それならいいんですけどね」
「じゃなきゃやってられっかよ。それに、ワープには同じ種族のものしか入れないからな」
「ワープ?」
僕の疑問に、「ああ」と珍しくサドは冷静に答えた。
「地球から外部の空間に繋いでいるポイントがあるはずなんだ。いわゆる異空間ってやつだ。その中の方が、地球よりも快適に過ごせる。もし自分ら以外のやつが入ったら、勝手に弾き出してくれるしな」
「へーえ、異空間か」
異空間っていうとわくわくするな。
僕は、宇宙みたいなイメージをした。
「そのもとっていうのはどういうところにあるんですか?」
「移動しないものに繋いでいることが多いな」とフランクさんが繋ぐ。
「ここだと木とかですか?」
「そうだな。触ると空間が歪むような感覚があるはずだ」
「とにかく探してみましょう」
タタンの声を皮切りに、僕らは木に囲まれた森を捜索し始めた。
片っ端から木を触っていくけど、ごつごつした木の皮が当たるだけで、特に何も起こらない。
「うーんないなー」
「これ食べますか?」
ニコニコとタタンが包みに入ったお菓子を渡してきた。
「これ何ですか?」
「チェリーボンボンです」
「あ、結構です」
考えるだけで酔ってきそう。
「そうですか、美味しいんだけどなー」
モグモグとタタンは咀嚼して、またバッグの中を漁った。
全部チョコが入っているらしい。
「おいお前、あんまし遠くにいくなよ」
「あ、はい」
その後夢中になっていると、サドが声を掛けてくれた。
お礼を言ったら、「別に」だって。思ったよりいい人なのかもしんないな。
と言いつつも、集中力っていうのは恐ろしいもんで、どんどん僕は奥に進んでいった。
それで、一本ずつ気を確かめていたとき、
「あっ」
僕は思わず木から手を離した。
離した、というのとはちょっと違うな。
それは「無」だった。
触れている感覚も何もしないんだ。
僕は、もう一度手を入れた。今度はもう少し深く。途端、手に何か絡みついた。
「誰かっ」
と、僕は叫んだ。
「どうした坊主!」
サドの声だ。
「助けてっ、手が変なんだ」
右手では耐え切れずに、左手も「無」に突っ込んだ。
「坊主ッ」
「サドさん、手が中にっ」
「わかってる!」
サドが片手で僕の手を掴むと、僕の手のひらから、紫のシャボン玉のような色をしたものが、チーズのように伸びている。
徐々にそれは、手から腕を包み込み、顔へと侵食してくる。
「ポイントだ。おいフランクッ、タタンッ」
シャボンが大きくなって、体が飲み込まれていく。二人が駆けつけたときには、僕たちの体全体がシャボンに包み込まれていた。
「フランクッ」
タタンをおぶさって走ってきたフランクさんの手を、サドは勢いよく引っ張った。
二人がシャボンに吸収された途端、シャボンがピシャッと体に張り付く。呼吸が難しくて苦しくなった。
次いでどこかに引きずり込まれる感覚がした。
「うぉおおおおっ」
とにかく物凄いスピード。
とてつもなく大きなブランコを立ちこぎしていて、限界の高さまで上がったら投げ出された感じだ。
おまけにプロペラみたいに体まで回ってるときた。ぐにゃぐにゃした世界のスピードに耐えられずに、僕は目を瞑った。
