七月二十一日。深夜零時。
「……でーきた、っと」
 私は書き上げた三枚の手紙を手に取った。
 一枚はこの部屋の机の上に、残り二枚はスカートのポケットに入れて、玄関へと向かう。
「──バイバイ、お父さん、お母さん」
 少し感傷的な気分になったけれど、それを振り払って私はドアを開けた。
 夜の街を歩く。真っ暗な空の下、この近くでカズ爺に会ったことを思い出した。

*      *       *
 
 レイと喧嘩して気まずくなった私は、だらだらと自分の家までの道を歩いていた。その時、見覚えのある少年を見つけたのだ。
「あれ、小久保君──じゃなくて、カズ爺?」
 そう呼ぶと、同級生にそっくりな少年──中身は彼の祖父──は振り返った。
「おお、茜ちゃんか。元気にしておったか?」
「……あ、うん、まあ」
 不自然な返事に気付いたのか、「もしや、怜香と喧嘩でもしたか」と見抜かれてしまった。
 えへへ、と笑って濁すと、「まあ、そんなこともあるわな」とカカカと笑った。
 そんなカズ爺に少し安心した私は、カズ爺に一つ問い掛けた。
「……ねえ、カズ爺は、どうして守護霊になったの?」
 それは、最近ずっと気になっている問いの一つだった。守護霊になったカズ爺は、どうしてその選択をしたのだろうか、と。
 その問いかけに、カズ爺は少しだけ、ほんの少しだけ顔を顰めた。
「──一樹が、心配でな。まあ、それも、エゴなんじゃがな」
「エゴ?」
 思いがけない言葉に、思わず声が漏れる。
「そうじゃ。守護霊なんてものは、守っていると言いながら、その実エゴの塊みたいなもんじゃ。ワシはワシのためだけに守護霊になった。守護霊になりたいのなら、そこだけは勘違いしてはならん。守護してやりたい誰かのためなんて、そんなのは言い訳じゃからな」
 ビクリ、と肩が震えた。まるで私の心を見透かしているかのような言葉に、醜い自分を隠したくなってしまう。
「自分がどうするかは、たとえ誰のためという理由があろうと、結局は自分のためでしかない。見返りも、期待もしてはいけない。それがわかっているなら、きっと大丈夫じゃよ」
 チラリとカズ爺は私を見て、優しく微笑んだ。本当に全て見透かして、私を勇気づけてくれているみたいな言葉だ。
「……うん、そうだね。ありがとう、カズ爺」
 ──カズ爺のお陰で、ずっと考えていたことに決心が着いた。
 暮れていく空の下、私は明日するはずの仲直りのことを考えていた。