七月十八日。昼休み、屋上。
「──だ~れだっ」
不意に視界を手で覆い隠された。
「急に何、茜」
ギリギリで顔には触れられないその手に、そっけなく言葉を返した。
「レイ、すぐわかっちゃつまんないよ~」
口を尖らせてひょいと顔を覗かせた。
「……で、何? 何か言いたいことあるんじゃないの?」
茜は私の問いかけに少し口籠った。そして躊躇いがちに口を開く。
「……レイ、最近少し落ち込んでたから。小久保君にも前にも増して冷たいし、私と喋ってる時も微妙に変だったから、ちょっと気になって」
思いがけない言葉に、私は目を見開いた。
──気付かれていたのか。
……確かに、倉橋由利香が成仏した後、私はこれまで以上に小久保一樹を避けていた。今まではあんまり煩いと言い返したりはしていたが、今はそれすらもしない。何の反応も返さず、あいつをまるで存在しないかのように扱った。……そう、かつての私のように。
……ここまでやれば、流石のあいつも私のことを嫌いになるだろう。
そう思ってわざとやっていたから、別に何を言われようがどうでもよかったけれど、茜はそんな私にさえ優しさを返す。酷い奴だと罵られても当然なのに、〝落ち込んでいた〟とか〝変だった〟とか、私が見せようとしていない本音の部分を見透かされているようで、ちょっと癪だったけど、でも少し嬉しかった。
誰にもわかってもらえなくてもいい。だけど、誰かにわかっていてもらえるのは、嫌なことではない。そんな気持ちを、茜と出逢ってからは何度も感じる。
そんな本音を口には出せずに、私は「別に何でもないよ」と軽く茜をあしらった。
「あー! 私のこと適当にしとけば引っ込むとでも思ってるんでしょ‼」
ギャーギャー騒ぎだした茜に、私はうんざりと目を閉じた。
夏の照り付ける日差しは、容赦なく私を焼いていく。でも、そんな日差しよりも、今日は頭上に広がる青空の方が鬱陶しかった。
……ああ、あの日と同じだ。
あの日も、こんな綺麗な青空だった。
目を閉じても、瞼の裏に映って消えない青を、私は何度も思い出す。
何度も、何度も何度も、消えないその記憶を、私は思い出す。
──私があの日、屋上で犯した罪を。
