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幽霊になって真っ先にあたしがしたのは、彼を捜すことだった。
なぜか。
──未練が、あったからだ。彼に関する未練が、あたしを成仏することから遠ざけていた。
幸い通っている高校は制服から割れていたから、三日も高校を張っていれば見つけることができた。
だけど。
「……そりゃ、そうよね」
──幽霊になってしまったあたしの声が、彼に届くはずもなく。未練を果たすことのできないまま、あたしはただ高校の近くを彷徨っていた。
諦めて、成仏した方がいいのかもしれない。そんな風にも思ったけれど、どうしても踏ん切りがつかなくて諦めきれずにいた。
──そんなある日、あたしと同じように背中に半透明の数字を浮かべた少女と並んで歩く女子高生を見つけた。その挙動から、彼女が幽霊が見える人間なのだとわかって、すぐにあたしは行動に移した。
『あんたが言うこと聞いてくれないなら、あんたとあんたの近くにいる人間、全員呪ってやるわよ』
全くの嘘っぱちだったけれど、そんな脅しまで使っても、叶えたかった未練があった。
たまたま彼女──小松怜香と彼が知り合いで、デートするところまで漕ぎ着けられたのはとても運が良かった。
初めてのデートを、初恋の人とできる。なんて幸せなんだろうと、そう思った。お洒落のおの字もないような、女子力ゼロの小松怜香にならなければいけないのは不服だったが、それでも目一杯可愛い服装をして、メイクをして、一度きりのデートに臨んだのだ。
幸せだった。何もできずに死んでいたはずなのに、好きな人と再会できて、もう一度言葉を交わせて、デートまですることができて。……確かに幸せだった、はずなのに。
──人って、どうしてこうも欲張りなんだろう。
一つ願いが叶えば、もっと、と望んでしまう。もっとこの人と一緒にいたい、もっと彼といろんなことをしたい、──彼に、あたしのことを好きになって欲しい。
それが無理だということは、再会してすぐにわかった。
──彼の瞳が誰を追っているのか、どれだけその人を大切に想っているのか、鈍感でないあたしは気付いてしまったから。
「……あたしの方がよっぽど可愛いのに、見る目ないなぁ」
そんな負け惜しみを口にして、胸に巣食うやるせなさを誤魔化した。
デートが終わる前に、彼の答えがわかっていながらもあんなことを聞いたのも、段々と生きることを諦めきれなくなっていたからだ。
だけど、彼の答えは予想通りで、──あたしは、ようやく諦めがついた。
たとえ見た目が小松怜香だったとしても、彼はそんなもので相手を好きになったりしない。身体が同じでも、中身が小松怜香じゃないと意味ないんだって。
「……あーあ、終わっちゃうなぁ」
もうすぐ観覧車は一周して、この身体も手放さなければならない。
「──本当に、好き、だったのになぁ」
一樹さんに聴こえないように、ぼそりと呟く。
やってみたかったことはたくさんある。
──でも、失恋の痛みは知りたくなかったな、と終わりの近付く観覧車の中で思った。
