言えなかった“ごめんね”と、言いたくなかった“さよなら”を


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 私にとって、幽霊とそうでない〝普通〟の人間とを見分けるのは、至難の業だった。
 私には幽霊も人間もほとんど変わりがないように見えてしまう。普通に声も聞こえる。生きている人間と何ら変わりがなかったのだ。
 そんな人間と幽霊(彼ら)を見分ける唯一の違いは、背中に浮かび上がる半透明の数字だ。
 幽霊の背中に浮かび上がる半透明の数字、それは、四十九日のカウントダウン。
 死んでから四十九日を過ぎる、つまりカウントダウンが『0』を越えると、半透明だった数字は真っ赤な色に変わり、四十九日を過ぎた分の日数を表示するようになる。そうなってしまうと、もう自分から成仏することはできない。
 そうして、タイムリミットを過ぎた霊は遅かれ早かれ悪霊化し、生きている人間に危害を加えるようになるのだと、昔教えてもらった。
 そんな霊を、〝日常〟として目にしてきた私は、当然のごとく周りに気味悪がられた。
 〝嘘吐き〟
 〝化け物〟
 恐怖に染まった目でそんな言葉を投げかけられたことも、一度や二度ではなかった。
 でも、私は気にしていない。自分が〝普通じゃない〟ことは、誰よりも自分が自覚している。それに、別に自分が〝普通〟になれなくたってよかった。
 なぜなら、私は生きている人間に興味がなかったからだ。生きている人間(他人)にどう思われようが関係ない。私が興味を持つのは、死んでいる人間(幽霊)だけだ。
 だからこそ、幽霊がいれば大抵の場合は話しかけに行くし、それを誰に見られても構わないからこそ、私は余計生きている人間(普通の人)に不気味がられた。
 〝死神〟
 それが、私が気味悪がられた末につけられた渾名だった。
 しかし、残念ながら私にそんな力はない。私にできるのは、ただ、〝見ること〟、それだけなのだ。
 そんな私に唯一出来た友達とも言える人物──それが、七日前に事故死した、隣のクラスの〝西村茜〟だった。

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 昼休みの屋上。
「茜、あんたよくもまあ自分の役にも立たない授業を聞いてられるよね。私だったら絶対聞かない。聞くわけない」
 焼きそばパンを齧りながら私は茜に言った。
 頭上に空が広がるこの場所は私たちの特等席。他に人もやって来ないから、何一つ遠慮せずに茜と話ができた。
「だって、他の子が真面目に授業受けてるのに、私だけサボるなんてズルいじゃん」
「他の子には見えてないのに?」
 そう返すと、茜はぐっと言葉に詰まった。
「確かに……って、ダメダメ~っ! 私を悪の道に引き摺り込もうったってそーはいかないんだからね! そんなこと言って、レイは自分もサボる理由が欲しいだけでしょ⁉ 幽霊の私がサボってないんだから、レイもサボっちゃダメなのだ‼」
「ちっ」
「舌打ちした~! 酷いー」
「てか、何だよ、その謎理論は。あんたがサボってないからって私がサボっちゃいけない理由にはならなくない?」
 呆れながら私は紙パックのジュースにストローを突き刺した。
「……でも、授業、ちゃんと受けてほしいんだ。当たり前の、つまらないことかもしれないけど、できるならできるうちにやった方がいいって、そう思うから」
 ぐっと、何かを堪えるように胸元で手を握り締めた彼女の姿に、私はふいと目を逸らした。
 ──茜はもう、授業を受けることさえもできないのか。
 忘れていたことを思い出す。彼女は幽霊で、もう死んでいるのだ。
「わかったよ。あんたの熱意に免じて、授業はサボらないであげる」
 ストローから吸い上げたジュースは、甘ったるいブドウの味がした。