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 生きている意味なんて、わからなかった。
生まれてからずっと、糞みたいな人生を送ってきた。
 両親は仮面夫婦で、二人の間に愛なんてなかった。じゃあ、そんな二人の間に生まれた子供はどうなる。愛のない二人の愛のない行為で産まれたオレは、きっと、産まれ落ちたその瞬間から、〝間違い〟のような存在だった。
 失敗作のオレは、生まれた意味も、生きている意味もわからないまま、ただただ惰性で生を貪っていただけだった。
 大学入試に落ちたオレは、両親から遂に勘当された。失敗してしまったオレは、出来の悪い息子から、完全なる彼らの汚点に成り下がり、彼らの子供として生きることを許されなかった。もう二度と帰ってくるな、この恥さらし。そう罵られ、着の身着のままで家を追い出されたあの日、オレは心の底からこの世に生まれてきたことを後悔したのだ。
その後は、生きていくために必死だった。別に生きる意味なんて何一つ持ち合わせていなかった。それどころか、友達も、恋人も、好きな女すらいない。ないもの尽くしの人生だった。オレという人間は、多分、空っぽだった。それでも、生存本能が死ぬことを良しとしなかったがために、オレは必死に働いて、どうにかこうにかギリギリ生きていけるだけの金を稼いだ。
 でも、すぐにクビになる。オレは才能がないどころか、人よりも数段要領が悪かった。折角受かったバイト先もへまを犯してすぐにクビになった。何をしても、どこに行ってもその繰り返し。遂には定職には就けず、オレは立派なフリーターとなっていた。
 クビだと言われる度に、お前は不要なのだと、この世界に必要のない人間なのだと言われているような気がした。お前が生きている価値なんてないのだと、そう言われているような気がした。
 結局オレは生まれてから死ぬまで、ずっと間違い続けたのだろう。正解なんて一つも選べないまま、〝間違い〟のままで死んでいった。
 でなければ、酔っ払ったまま酒を買いに行こうとして、その足を滑らせて階段から落ちた、なんていう、自分でも嘲笑(わら)っちまうような間抜けな死に方なんてしない筈だ。
 死んで幽霊になった後も、自分が生きていないことを何一つ悲しく思わないまま、『未練なんてない』とあっさりと言えてしまうような、そんな糞みたいな人生にはならなかった筈だ。
 オレは、〝間違い〟として産まれて、〝間違い〟のままで死んでいった。生きている意味も、生きる価値もわからないままで、ただ呆気なく死んでいった。そういう、人生だった。