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六月二十日。
少し湿った空気が籠る季節。湿気を感じない幽霊がほんの少し羨ましい。
日が落ちるのが遅くなったせいで、冬には真っ暗になってしまう時間帯でもそこそこ明るい。だからというわけではないが、午後六時を過ぎたこの時間でもそこまで空が黒くなることはなかった。
「暗くないからって帰るのが遅くなるのはダメだよ。危ないんだから」
「別にわざとじゃないってば。今日はたまたま寝過ごしちゃっただけなんだから」
そう、放課後、屋上で一休みしようと思っていたら、思いの外長く眠ってしまっていたのだ。わざとじゃないんだから許してくれてもいいと思う。
というか、茜ならいざ知らず、私に危険が及ぶなんてことは万が一、いや、億が一にもないだろう。多少童顔な顔立ちとはいえ、一応ちゃんと美少女の枠に入る茜に比べ、素の顔で不愛想だとか目つきが怖いだとか言われる私はどう考えても変質者に襲われるタイプではない。むしろお化けか妖怪に間違われて悲鳴を上げられかけたことなら何度もある。私は幽霊じゃないんだがな。
そう脳内で独り言を呟きながら帰り道を歩いていたその時。
「……ん?」
怪しい動きをする人影が視界に入り、私は足を止めた。
その人影は電柱に身を隠し、その陰からこそこそと前方を覗いている。
「何してるのかな、あの人」
茜が不思議そうに首を傾げた。
「さあね。取り敢えず私には関係な──」
関係ない、そう言って横を通りすぎようとした時、私は目を見開いた。
「……いや、関係あるな」
素早く手の平返しをしてその人影に近付く。
「あんた、何してんの?」
私の声に明らかにびくりと反応したその女は、振り返った顔を驚愕の色に染めた。
「あんたたち、私が見えるの⁉」
──先程まで視界に入っていた彼女の背中には、『19』という半透明の数字が浮かんでいたのだ。
