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 それからの日々は、私にとって、今までにないことの連続だった。
「レイ、普通の(見えない)人がいるところで幽霊に話しかけに行かないの!」
 格好いい、そう言ったくせに、茜は私が人前で幽霊と話すことを止めさせようとした。
「格好いいって言ってなかったっけ?」
「それとこれとはべ・つ・な・の! 世の中で生きていくにはTPOってものが大切なんだよ。だから幽霊に話しかけるのは人前以外で、話すんだとしても気付かれないように‼」
「えー……」
「えーもだってもありません!」
 茜にそうしつこく言われるものだから、私は幽霊と話す時に人目を気にするようになった。そうすると、私は誰もいないところで独り言を離す変人から、ただとっつきにくい人間になった。

「人に話しかけられたらちゃんと答える! 読んでもいない本で相手を威嚇しないの! そして私を無視しないで~‼」
「え、めんどうくさ……」
「面倒臭いとか言わないの! 無視されたら私、泣いちゃうからね⁉」
「うざ……」
「レイ、口悪い!」
 茜の口煩さに観念して、最低限の返事くらいはするようになった。私が言葉を返したことに驚いたのか、誰からも人気があった茜が仲良く話しているからか、クラスの女王様を怖がっていたクラスメイトたちも、徐々に話しかけてくるようになった。

 まるで普通の人間みたいな、そんな日々に変わっていく。茜と一緒に屋上で空を見たり、教室で昼ご飯を食べたり、人のいない場所でこっそりと霊の話をしたり、何もせずにただ一緒に居たり。そんな風に過ごすうちに、私たちは段々と本物の友達らしくなっていったのかもしれない。普通じゃない私が、まるで普通の女子高生のような、そんな毎日を過ごしていた。
 幽霊が見える(自分と同じ)、だけど私とは正反対の茜に、苛々したりうざったくなったりする時もあったけれど、茜と過ごす日々のことを、どこかで気に入っている自分がいた。
 自分の見えているものを、何も隠し立てせずに話せるのは楽だった。自分が見ている世界と同じものを見ている仲間がいるというのは、案外心強いものだった。一人きりじゃないというのは、思ったよりも心地いいものだった。
 そんな、茜に出逢うまでは知ることもなかった感情に、一つ一つ気付かされていく。それが茜によるものだと思うと少し癪で、でも、こんな気持ちを知ることも悪くないと、そんな風にも思えるようになった、そんなある日。
 ──茜は、死んだのだ。