部屋に帰ると、私はあらためてオーディションのチラシを見直した。
 
 応募資格は十三歳から二十五歳までのアマチュアデュエット、女性に限る。最終審査までは七ブロックに分かれて行われ、一次審査は好きな曲を歌った録音による審査、その二週間後に各地のオーディションで優勝者各一組を決定する。そうして選ばれた七組が七月二十日から一か月のサマースクールに入学して歌の技術を学びつつ、夏の終わりのステージで最終審査を行う。

「ちょうど夏休みの期間かぁ」

 二十五歳まで応募可能だが、あくまで若い子たちを標的にしているわけだ。

「年齢制限ぎりぎり、きびしいなぁ」
 思わずぼやく。

 母曰く、女はクリスマスケーキと同じ。二十五歳を過ぎたら売れ残る。
 古い考え方だが、多様性が叫ばれる現代でも若さが尊まれる風潮は未だにあちこちで見られる。オーディションに出ても「痛いオバサン」と後ろ指をさされ、恥を搔くのが見える気がした。
 とはいえ、あの動画をばら撒かれたら、しばらく恥ずかしくて表を歩けない。
 それにもう一次審査の録音を送ってしまった。今更、引き帰せない。

 私はオーディションのサイトを開いて、選んだ曲のデモテープを聞き直した。
 先入観を無くすためか、機械のように淡々と歌う声。やっぱりルナの歌声のほうが何十倍もそそる。

 ひとしきりテープを聞きながら練習してはたと気づく。オーディションに出るとしたら、舞台用の服だって必要だ。
 クローゼットは白、黒、ベージュ、仕事用の地味な色で埋め尽くされている。

「これはさすがに駄目だよね……」

 ジーパンにTシャツも論外、このロングスカートもちょっと野暮ったい。安物の服の山を引っ掻き回してあれこれ考える。

「髪の毛もなんとかしないと……って、なにワクワクしてるの私」
 
 ふいに我に返って恥ずかしくなる。年寄りの冷や水、なんて言葉が頭を過った。
 眠れなくなりそうなので目を閉じる。さっきまで聞いていた旋律が耳の奥に遠く近く響いていた。