控室の前にルナと奏夜がいた。
「ちょっとゆっくりしすぎじゃに。ヒロ」
「ルナがせっかちなんだよ」
ルナが可愛らしい顔でむくれ、奏夜が静かな顔で宥める。
「ヒロ、顔つきが変わったね」
奏夜がふっと顔を近づけてくる。
「その説は、お世話になりました」
私は動揺を押し殺して頭を上げた。奏夜がつられたように白く滑らかな頬を少しだけ染め「こちらこそ」と呟く。
「ちょっと、二人の秘密みたいな空気やめてよ! 私だってチームなんだから」
ルナがキャンキャン喚きながら飛びついてきて、三人揃って転びそうになりながら、笑い声をあげる。
「二人とも、僕の歌を完成させてくれてありがとう。会場で見届けるから」
奏夜が優しく笑って、大きな掌で私たちの背中を押す。
「いってきます」
私とルナは息もぴったりで手を振ると、控室のドアを開けた。
控室にはすでに多くの出場者がいて、メイクや衣装合わせに余念がない。私はアイロンで髪を巻くルナを見つけて、横に座った。
スタイルが良くて目鼻立ちがはっきりした子の中でも、ルナは相変わらず目を引く。私だって負けていないはずだと、鏡に向かって笑いかける。
白くて小さな歯や垂れ目の大きな瞳がチャーミングだ。右肩にオーガンジーのリボンをあしらったブルーシルバーのワンピースもサマになっている。フィッシュテイルのスカートにも肩と同じ透け感のある生地が使われ、動きに合わせてふんわりと揺れるのが印象的だ。お揃いのピンクゴールドのワンピースに身を包んだルナにはやっぱり敵わないかもしれないけど、悪くはない。
大丈夫だ。それに一番大切なのは歌なのだから。死ぬほど練習を重ねてきた。自信を持ってステージに立てばいい。息を大きく吸って緊張をほぐす。
「もうすぐ出番だね。頑張ろうね、相棒」
鏡の中でルナがウインクした。気負いなど微塵もない、余裕の表情だ。
「もちろん。でも私、あがり症なの。あー緊張する」
「大丈夫だって、ヒロはさ、歌ってる時は別人だから。私を見てっていう感じ。本当は人に注目されるの嫌いじゃないでしょ」
「そう、なのかな」
ルナにはいつも知らない自分を見つけ出される。たしかに、ルナの店やオーディションなど、観客を前に歌った時は楽しくて気持ち良さに我を忘れていた。
「それに、私がついてるしね」
ルナが私の手をぎゅっと握る。ひんやりとして滑らかな手触りだった。
私はルナと手を繋いだまま舞台そでに移動した。今、二つ前の組が歌っている。アップテンポな曲に熱気の入ったいい雰囲気だ。会場が歓迎するように、どよめき揺れている。
あそこに立って自分を見て貰いたい。
そんな気持ちが静かに湧き上がってきた。興奮と緊張で頭の中が白く塗り潰されていく。夢の中にいるように、足元がふわふわとした。
「私らかて、負けへんからね」
挑発的に、真っ赤なルージュを引いた唇を吊り上げる朱音のとなりで、淡いピンクのルージュを引いた相方のサアヤが頬笑んだ。二人ともとても綺麗だ。黒と白の対照的なゴシック調のステージ衣装が、とても似合っている。
「朱音&サアヤのペア『blessing to you』」
「ほな、いってくるわ」
朱音が勢いよくガッツポーズをする。
明るくパワフルな音楽が流れ出した。迫力のある朱音の声が鼓膜を揺らし、鈴の根のように可愛らしいサアヤの声が耳朶をくすぐった。
どうしようもなく生き生きとしていて、輝いている。私も早くあそこに立ちたい。はやる気持ちを押え、深呼吸した。
「ちょっとゆっくりしすぎじゃに。ヒロ」
「ルナがせっかちなんだよ」
ルナが可愛らしい顔でむくれ、奏夜が静かな顔で宥める。
「ヒロ、顔つきが変わったね」
奏夜がふっと顔を近づけてくる。
「その説は、お世話になりました」
私は動揺を押し殺して頭を上げた。奏夜がつられたように白く滑らかな頬を少しだけ染め「こちらこそ」と呟く。
「ちょっと、二人の秘密みたいな空気やめてよ! 私だってチームなんだから」
ルナがキャンキャン喚きながら飛びついてきて、三人揃って転びそうになりながら、笑い声をあげる。
「二人とも、僕の歌を完成させてくれてありがとう。会場で見届けるから」
奏夜が優しく笑って、大きな掌で私たちの背中を押す。
「いってきます」
私とルナは息もぴったりで手を振ると、控室のドアを開けた。
控室にはすでに多くの出場者がいて、メイクや衣装合わせに余念がない。私はアイロンで髪を巻くルナを見つけて、横に座った。
スタイルが良くて目鼻立ちがはっきりした子の中でも、ルナは相変わらず目を引く。私だって負けていないはずだと、鏡に向かって笑いかける。
白くて小さな歯や垂れ目の大きな瞳がチャーミングだ。右肩にオーガンジーのリボンをあしらったブルーシルバーのワンピースもサマになっている。フィッシュテイルのスカートにも肩と同じ透け感のある生地が使われ、動きに合わせてふんわりと揺れるのが印象的だ。お揃いのピンクゴールドのワンピースに身を包んだルナにはやっぱり敵わないかもしれないけど、悪くはない。
大丈夫だ。それに一番大切なのは歌なのだから。死ぬほど練習を重ねてきた。自信を持ってステージに立てばいい。息を大きく吸って緊張をほぐす。
「もうすぐ出番だね。頑張ろうね、相棒」
鏡の中でルナがウインクした。気負いなど微塵もない、余裕の表情だ。
「もちろん。でも私、あがり症なの。あー緊張する」
「大丈夫だって、ヒロはさ、歌ってる時は別人だから。私を見てっていう感じ。本当は人に注目されるの嫌いじゃないでしょ」
「そう、なのかな」
ルナにはいつも知らない自分を見つけ出される。たしかに、ルナの店やオーディションなど、観客を前に歌った時は楽しくて気持ち良さに我を忘れていた。
「それに、私がついてるしね」
ルナが私の手をぎゅっと握る。ひんやりとして滑らかな手触りだった。
私はルナと手を繋いだまま舞台そでに移動した。今、二つ前の組が歌っている。アップテンポな曲に熱気の入ったいい雰囲気だ。会場が歓迎するように、どよめき揺れている。
あそこに立って自分を見て貰いたい。
そんな気持ちが静かに湧き上がってきた。興奮と緊張で頭の中が白く塗り潰されていく。夢の中にいるように、足元がふわふわとした。
「私らかて、負けへんからね」
挑発的に、真っ赤なルージュを引いた唇を吊り上げる朱音のとなりで、淡いピンクのルージュを引いた相方のサアヤが頬笑んだ。二人ともとても綺麗だ。黒と白の対照的なゴシック調のステージ衣装が、とても似合っている。
「朱音&サアヤのペア『blessing to you』」
「ほな、いってくるわ」
朱音が勢いよくガッツポーズをする。
明るくパワフルな音楽が流れ出した。迫力のある朱音の声が鼓膜を揺らし、鈴の根のように可愛らしいサアヤの声が耳朶をくすぐった。
どうしようもなく生き生きとしていて、輝いている。私も早くあそこに立ちたい。はやる気持ちを押え、深呼吸した。



