テストの当日はあっけないほど上手くいった。生徒たちがそれぞれ歌い終えると、アリサ先生は「みんな合格よ」とにっこり笑った。これまでの鬼のような厳しさが、嘘みたいだった。

「皆さん、歌は心です。ハートの通っていない歌は誰の心にも響きません。あと女性らしさ、ラブリーさをけっして忘れないように」

 私は脱力しそうになった。心の話はそれなりに共感できるが、女らしさやラブリーさというのは未だに理解できない。
 でもそれも一つの戦略なのだと思う。実際、アリサ先生が指導したという歌手は、性別を感じないと言われるアマネとはまるで逆の、女性らしい魅力に溢れている。
 そんなことを考えていると、アリサ先生がヒールを響かせながら近づいていた。

「広子さん、アナタよかったわ。見違えた」

 とっさに言葉が出てこず、軽く目を瞠る。

「勿体ないと思ったの。テクニックがあるし、感情だって豊かなのに出しきっていないから。特にラブソングはまるきり誰かの借り物。でも今回は、あなただけの恋する女の子が感じられたわ」
「ありがとうございます」

「もっと自分に自信をもってね。あなたは十分にラブリーだから」
 アリサ先生が軽くウインクをする。

 美人の彼女はきっと周囲の人間から「可愛い、可愛い」と言われて育ち、自分の魅力を疑ったことなどないのだろう。否定されて育ってきた私とは根本的に世界の見方や考え方が違う。でも今回の課題のおかげで、ありのままの自分で挑む勇気を学べたと思う。

「やったじゃん、ヒロ。アリサ先生のラブリー論は正直、意味わかんないけど、認められてよかったわね」
「なによ、結局、ルナも分かってなかったの」

 こそっと耳打ちしてきたルナと思いきり笑い合う。

「さて、いよいよ次が最後ね。ソウの歌、完成させるわよ」
「うん」