厄日かもしれない。次のダンスレッスンも散々だった。なにせダンスなど高校の授業で少し習ったくらいだ。おまけに三年の会社勤めで体力はすっかり落ちている。若い子たちのように体がついていかず、講師からは叱責の連続。

「なんやオバさん、ロボットダンスかいな」
 朱音が呆れた声を出す。
「あのダンス。やばくない?」
「いくら歌手だからって、今どき歌だけで勝負なんて自信過剰だよね」

 他の子たちも便乗して囀りだす。容赦なく突き刺さる憐みの視線に胃が捩じれそうだ。社会に出て働いたことも無い小娘たちに言われっぱなし。あまりの情けなさに溜息も出ない。
 ぜぇぜぇと肩で息をしながら、講師の動きをおさらいする。しかし、スリーステップからの動きがもう思い出せない。次は忘れないようにと講師の動きに目を凝らす。

「やだ、怖い」
「ガン見しすぎでしょ。呪い殺されそう」

 せせら笑う小悪魔たちに心が折れそうだ。私のダンスは壊れたロボットみたいでさぞ滑稽だろう。自分でそんなふうに思い始めるともうだめだ。萎縮してさらに動きが固くなっていく。

「ほら、広子さん! 動きが違う。右足は前、左足を軽く曲げて、手は広げる」

 早速、名指しで指摘。恥ずかしさに顔が燃える。私にとって失敗は一番の悪で、だから失敗しそうな経験はすべて初めから避けてきた。そのツケを今一気に払っている気分だ。
 夢なんて見なければよかった。無様にのたうちながら後悔が込み上げてくる。なんの才能も無いのに熱に浮かされて夢の世界に飛び込んだ私は、愚かだったのかもしれない。
『ほらみなさい。アンタってホントにダメ』
 母のけたたましい笑い声が、耳の奥に反響した。