オーディションの日が迫ってきた。職場では百合奈たちとなんとなくギクシャクしていたが些末なことに思えた。あと数日で何かが変わる。いや、変えるのだ。
練習後シークレットベースで夕食のリゾットを機械的に口に運びながら、私はステージのルナを見上げた。こうして客席から見ていると良く分かる。ルナには人を惹きつけるオーラがある。
私はさしずめ、光に誘われて身を焼かれようとしている蛾だろうか。惹かれる者と惹きつける者。私たちの立場は決定的に違う。あの日、練習を突然ばっくれたルナに理由一つ聞けないでいる。思えばルナのことは、ここでバイトしていることと公立高校に通っていること以外、何も知らない。相棒ってそんなものなのだろうか。
「いよいよ明後日だね」
一人悶々としていると、奏夜が前の席に来て座った。
「緊張してる? 大丈夫。ヒロは本当にいい声だから」
「あっ、ありがとう」
長い前髪越しに薄い色の瞳がじっと私を見つめている。そんな風に見つめられるとやっぱり緊張してしまう。
奏夜は気にするそぶりもなく、心地よさそうにルナの歌に耳を傾けている。お互い言葉は無い。でも心地よい沈黙だった。少しずつ方の力が抜けていく。今ならずっと気になっていたことが聞けるかもしれない。
「あっ、あの」
「ん?」
奏夜がふっと顔を上げる。前髪がさらっと流れて綺麗な顔がよく見えた。
奏夜くんはもしかしてカナデさんなの。喉まで出かかっていた言葉がどうしても出てこない。
「ううん。やっぱりなんでもない」
慌てて顔の前で手を振る私に、奏夜がそっと拳を突き出す。
「明後日のオーディション、楽しもう」
「楽しむ?」
思わず首を傾げると、奏夜がふわりと表情を弛めた。
「うん。人に自分の音楽を聴いてもらえるってすごく嬉しいから。だから楽しんで欲しい。音楽仲間として応援してる」
雪解けにほころぶ花みたいな柔らかくて優しい笑顔。この笑顔、好きだなと思う。さすがに言葉にはできなかったけど。
「ありがとう。私、思いっきり楽しんでくるね」
私は精一杯笑って、奏夜の拳に自分の拳をそっとぶつけ返した。骨ばった拳は温かくて、触れたところから奏夜のパワーが流れ込んでくるような気がした。
練習後シークレットベースで夕食のリゾットを機械的に口に運びながら、私はステージのルナを見上げた。こうして客席から見ていると良く分かる。ルナには人を惹きつけるオーラがある。
私はさしずめ、光に誘われて身を焼かれようとしている蛾だろうか。惹かれる者と惹きつける者。私たちの立場は決定的に違う。あの日、練習を突然ばっくれたルナに理由一つ聞けないでいる。思えばルナのことは、ここでバイトしていることと公立高校に通っていること以外、何も知らない。相棒ってそんなものなのだろうか。
「いよいよ明後日だね」
一人悶々としていると、奏夜が前の席に来て座った。
「緊張してる? 大丈夫。ヒロは本当にいい声だから」
「あっ、ありがとう」
長い前髪越しに薄い色の瞳がじっと私を見つめている。そんな風に見つめられるとやっぱり緊張してしまう。
奏夜は気にするそぶりもなく、心地よさそうにルナの歌に耳を傾けている。お互い言葉は無い。でも心地よい沈黙だった。少しずつ方の力が抜けていく。今ならずっと気になっていたことが聞けるかもしれない。
「あっ、あの」
「ん?」
奏夜がふっと顔を上げる。前髪がさらっと流れて綺麗な顔がよく見えた。
奏夜くんはもしかしてカナデさんなの。喉まで出かかっていた言葉がどうしても出てこない。
「ううん。やっぱりなんでもない」
慌てて顔の前で手を振る私に、奏夜がそっと拳を突き出す。
「明後日のオーディション、楽しもう」
「楽しむ?」
思わず首を傾げると、奏夜がふわりと表情を弛めた。
「うん。人に自分の音楽を聴いてもらえるってすごく嬉しいから。だから楽しんで欲しい。音楽仲間として応援してる」
雪解けにほころぶ花みたいな柔らかくて優しい笑顔。この笑顔、好きだなと思う。さすがに言葉にはできなかったけど。
「ありがとう。私、思いっきり楽しんでくるね」
私は精一杯笑って、奏夜の拳に自分の拳をそっとぶつけ返した。骨ばった拳は温かくて、触れたところから奏夜のパワーが流れ込んでくるような気がした。



