前節で述べたように、「学校の怪談」を対象とした研究は、1990年代を皮切りに数多く発表されている。これらの「学校の怪談」は「学校の七不思議」とも呼ばれ、全国区で似通った物語が語られている。これには多くの語りを得られ、比較研究しやすいという利点がある。しかしそれゆえに、そのほとんどが「トイレの花子さん」や「音楽室のピアノの音」といった、代表的な怪談を扱ったものであったり、子供たちからの聞き取り調査が一度限りであったりと、調査範囲が限定的であるとの指摘は否めない。

 しかしながら、類似した物語が伝えられているとしても、「学校の怪談」は語り部である子どもたちが変われば、その内容も変化するのではないか。その変化はいくつかの小学校を抽出して調査するのではなく、一年に一度、同じ小学校を舞台に、同じ学年を調査することによって見えてくるのだと考えられる。

 そこで本研究では、2012年度から2017年度の六年にかけ、●●県●●市南小学校の六学年を対象に、毎年2月にアンケート調査を行った。この時期は、子どもたちにもキッズケータイやスマートフォン、タブレットなど、個別に利用できるデジタル機器が広く浸透した時期である。さらに、2020年から始まった新型コロナウイルスのパンデミックにより、リモート授業など急加速した学校のICT化が、「学校の怪談」にどのような変化をもたらしたのかを考察するため、2023年度の調査結果も組み入れた。

 また、この度の調査によって、「トイレの花子さん」といった全国区で語られる伝統的な怪談とは一線を画す、南小学校独自の「学校の怪談」が浮かび上がった。「ハギツグくん」と名付けられたこの怪談は、調査対象とした児童全員だけでなく、教職員や保護者までもが知り、かつ実体験さえ有する。時代の変化に目立って影響されている怪談であり、今後も注視すべき対象だと考えている。

 本研究では、特定の小学校において、六学年にのみ長期的に調査することによって、どのような怪談が語られ続けるのか、時代の変容が「学校の怪談」に与える影響について詳細に検討する。