「トイレの花子さん」や「音楽室のベートーヴェン肖像画」などに代表される、学校を舞台とした怪談、いわゆる「学校の怪談」は、異なる地域・世代であっても共通した構造を持ち語られてきた。1990年代には、子供たちを中心としたムーブメントとなり、書籍のみならず、ドラマや映画といった映像メディア、ゲームなどの商業活動にも影響を及ぼした。
特に書籍では、当事者である子供たちによる「投稿怪談」が出版社宛てに大量に押し寄せ、多くの関連書籍が登場し、大人たちをも巻き込んでいった。時代の変遷により学校教育の環境、さらには家庭環境に大きな変化があろうとも、「学校の怪談」は子供たちによってアップデートされ、取捨選択される一方で、変わらない形を維持しつつ、その時代に順応していっている。
90年代から現在に至るまで、それら「学校の怪談」を対象とした研究は数多く行われてきた。子供たちが語る「学校の怪談」は、時代性を反映し拡散する、伝承の新しい形態と言えよう。しかし、それらの従来の研究の多くは、日本全国の広範な地域を対象に、総合的に分析されたものであり、特定の学校に焦点を当てたものは少ない。特定の怪談を対象としたものでも、局所的な場所というよりも大局的な範囲であるものが多数派だ。
本研究は、●●県●●市南小学校において、2012年度から2017年度の六年間にわたり、六学年児童60名を対象に、アンケート調査を実施し分析したものである。さらに、新型コロナウイルス(COVID-19)によるパンデミックの影響で、急激に加速した学校環境のデジタル化を受け、2023年度に追加調査を行った結果を加えた。
継続調査によって得られたアンケート結果をもとに、子供たちが学校という共同体において、どのような怪談を語り継いでいくのか、それがデジタル化によって、どのように変化し共有されているのかを明らかにしていく。
また、南小学校では「ハギツグくん」と名付けられた、特異な怪談が伝承されていることがわかった。この怪談は時代の変化を強く反映していると考えられ、四章において単独で扱うこととした。
学校は、子供たちが生活の多くの時間を費やす場である。そこでは学習以外の話題が必ず発生するだろう。家族のことや、通っている習い事のこと、友達のこと、ゲームなどの遊びのこと、そして怪談もその中には含まれていると考えられる。換言すれば、その場で語られる物語には、子供たちの興味・関心が如実に表れていると推察される。本研究を通じて、子どもたちの伝承の現在と、今後の語りの展望を示すことを目指す。



