本研究では、●●県●●市南小学校において、2012年度から2017年度、及び2023年度に「学校の怪談」について、児童たちにアンケートを実施し、伝承される「学校の怪談」を考察していった。
2012年度から2017年度で確認できた、「トイレの花子さん」や「教室での怪談」、「音楽室での怪談」など、全国区で広く語り継がれている定番の「学校の怪談」は、2023年度の再調査においても、児童たちから聞くことができた。一方で、「タブレットに呪いのメッセージが届く」や、「壁の二次元コードを読み取ると、写真がダウンロードされる」などの、現代的な新しい「学校の怪談」が発生していることも確認できた。
学校でのデジタル化の波は、「学校の怪談」にもまた及んでいることが窺える。子どもたちは、かねてより伝えられている怪談を保持しつつ、与えられる新たなガジェットから、それにふさわしい「学校の怪談」を生み出しているのだろう。
その顕著な例が、南小学校独自の怪談、「ハギツグくん」である。その発生時期や発生理由、姿形、影響など、実態がつかめない怪談である「ハギツグくん」は、子どもたちが学校に通う日常の中では「きずな掲示板」に張り紙という形でのみ出現していた。ところが、新型コロナウイルスの影響で、児童の登校機会が減ると、「ハギツグくん」は特定の掲示板を離れ、保護者向けメールという新たな媒体へと移行した。
今後、「学校の怪談」に限らず、子どもたちの伝承はインターネットの影響を受けながら形を変えていくことが予想される。斉田真人は、インターネットで得られる怪談は、新しく書きこまれることも多く、過去を含めれば、無限と言っていい数を得ることができる。そして、語られるそのときに「インターネットで見聞きした怪談」という情報が付随していても、その話を聞いた人物が、また別の人物に同じ話をするときに、その情報がそがれ、「その場所で伝わっている怪談」として姿を変える可能性を指摘した[斉田 2024]。
「学校の怪談」でも同じように、一つの場所で語られていた怪談が、異なる場所で語られる現象が起きることが予想される。南小学校独自の怪談である「ハギツグくん」も、いずれは別の小学校に持ち込まれ、新しい怪談に変化する可能性もあるだろう。
学校のデジタル環境の変化を如実に受ける、南小学校独自の「ハギツグくん」の怪談は、今後も調査対象とすることで、伝承の変容を探る指針となり得るだろう。
今回、「ハギツグくん」の張り紙やメールを提供を依頼したが、断られたため、現物の入手には至らなかった。そこで教員と保護者への意見を聞きながら、再現したものを資料に加えた。



