本章では、「ハギツグくん」について、第一回調査と第二回調査において児童・教職員・保護者から得られた情報をもとにまとめていく。

 南小学校では各学年にひとつずつ、児童が自由に利用できる掲示板が設置されている(資料1)。使用用途としては、クラブ活動の勧誘や報告、落とし物・拾い物の報告、習い事(ピアノや水泳など)の発表会や試合の告知といったもので、教師の許可を得た上で、A4サイズのコピー用紙、一人一枚までを最大二週間掲示することができる。


(資料1)

 掲示物には、右下部に日付と「南小」の押印がなされ、その印がない掲示物は撤去される決まりとなっている。この掲示板は「きずな掲示板」と名前がついており、設置されたのは1998年である。2023年度においても存続しており、現在の六学年の児童も利用しているようだ。

「ハギツグくん」の怪談は、主に六学年用「きずな掲示板」で発生する怪異である。

 内容は、A4白色コピー用紙に、
 
「明日、ハギツグくんが来校します。ご注意ください」

 という旨が印字されたものが張り出される、というものだ。縦書きにされたフォントは毎回明朝体であり、フォントサイズは75pt、文字色は黒色か緑色だという。

「明日、ハギツグくんが来校します」は毎回共通であるが、それに続く文面は毎回異なるそうだ。教員らへの聞き取りによると、「向かって北側の足元にご注意ください」という内容であったり、「特に最後尾にご注意ください」というもの、「校門から昇降口の間に伸びる影にご注意ください」というものがあるなど、注意対象は毎回異なるという。

 出現の頻度は不定期であり、決まった月日、時間などは確認されていない。「ハギツグくん」の張り紙が発見され、撤去した翌日に再び張り出されることもあれば、数カ月空くこともあるようだ。発見者は主に児童たちで、教職員は児童たちからの報告を受けてから、張り紙をはがし、職員室に持ち帰り、シュレッダーにかけて廃棄する。

 2023年度の調査では、掲示板に限られていた「ハギツグくん」の怪談が、学校から配信される保護者向けメールにも出現していることが確認されている。保護者らによれば、コロナによって学校環境が変化した2020年度に入るまで、「ハギツグくん」の注意喚起メールは確認されていなかったという。(※1)

 学校が利用している配信メールアプリでは、送信先を学校全体や学年ごと、クラスごと、児童個人ごとなど、送信対象を選択できる。「ハギツグくん」のメールは六学年全員宛てに送信されているようだ。しかし、送信元となっている学校側には送信履歴が存在せず、何故送られたのか、誰が送ったものなのかは不明のままである。本メールについて、学校側は未読・既読にかかわらず、即時消去することを推奨している。(※2)

 これら「ハギツグくん」が、いつから南小学校に出現するようになったかは、聞き取り調査では判明しなかった。しかし、少なくとも90年代から、教職員の引継ぎ事項として扱われているようだ。引継ぎ内容は、児童が「ハギツグくん」の張り紙を発見した場合教員に報告させること、報告を受けた職員はすみやかに張り紙を廃棄すること、メールに出没範囲が拡大してからは、保護者にも報告を依頼し、消去を推奨することである。

 この処置が長年にわたり引き継がれていることから、怪談が単なる児童の語りではなく、学校側の管理対象となっていることが推察できる。

 また、「ハギツグくん」の張り紙、及びメールが確認された後、何らかの事件・事故が発生したことはないという。

 次節では、「ハギツグくん」の怪談について、児童の間に流れる噂話とその広がりを詳細に扱う。
 


 ※1 配信メールアプリが学校に導入されたのは、2012年度からである。
 ※2 学校側によるメール送信の取り消しは、アプリの仕様上不可能であるため、保護者の自主的な削除を求めている。本聞き取りに回答した保護者(53名)は、「ハギツグくん」のメールを発見次第削除していると答えた。なお、メールの件名は毎回「【重要】明日、ハギツグくんが来校します。」であると回答している。