君はサーカスを見たことがあるかい?
……うんうん。見たことがある子もいれば、まだ見たことないよって子もいるね。
俺かい?俺はもちろん、見たことあるよ。
空中ブランコ、火の輪くぐりに綱渡り。わくわくするよなぁ。俺も好きだ。
だけど、一番みんなを楽しませてくれるのはピエロなんだ。嘘じゃないさ、ほんとだぞ?
だって彼らは、自分が笑われたっていいからと、必死におどけているんだぞ。健気じゃないか。
……え、なになに、それじゃピエロがかわいそう?なるほど、君の言うことももっともだ。
でもね、彼らは、笑っていてほしいんだよ。
他でもない君たちに。
え、仮面を外せばいいだろうって?ピエロをやめてしまえばいい?
そりゃ、君、横暴ってやつさ。
彼らはもう、仮面を外せないんだから。彼らにとっては、今さらなんだろうさ。
……でも、まぁ、そうだね。
ピエロが辛いと、助けてと君たちに言ったなら、君たちは助けてやればいい。
このお話に出てきたクラウンたちもおんなじだ。
苦しくなったそのときに、力になってやればいいんだ。
だって彼らの一番の願いは、君たちに笑っていてもらうこと。
そして、誰かを救うこと。
一人ぼっちじゃなくなったクラウンたちは、今ここにいる君たちの笑顔を望んでいるんだよ。
だから、笑ってみせてくれ。
笑えないなら、話を聞くさ。泣き止むまでそばにいて、お話をしてあげよう。
十分泣いたと思えたら、笑ってみせてくれ。
大丈夫、笑えないなら、クラウンが笑わせてくれるから。
ん、なんだって?クラウンなんて本当はいないだろう?君、ずいぶんませた子だね。
いいかい、君、周りをよく見てごらん。
君の周りには、きっと、君をよく見ていて、君に笑っていてほしいと願う人がいるだろう。
本当だって、俺は嘘もつくけれど、これは嘘じゃないぞ。
え、絶対にいない?そうか、断言しちゃうのか。
残念だが、それは間違いだ。……はいはい、本当にいないって、そんなに必死に言わなくても。
いいかい、君に笑ってほしいと思うやつは君の目の前にいるんだよ。
あ、ちょっと、そこの君、どこ見てるんだい。
ここだよ、ここ。
ここに一人、君の笑顔を望むクラウンがいるだろう?
そう、俺だ。
驚いたか?
はじめまして、俺はクラウン。とある人から伝言を頼まれた、一人のクラウンだ。
とある人が誰かって?いやあ、それは言えないなぁ。……なんて言ったら、あっちの疑り深い彼が嘘だと言い始めるだろうから言っておこうか。ここだけの話だぞ?
クラウンになったとある女の子。
その子が、君たちに笑っていてほしいからと、このお話を届けるように俺に言ったのさ。え、名前?それはさすがに言えないなぁ……でも君たちは、薄々気付いているだろう?そう、その子で合ってるよ。
全く人使い、違った、クラウン使いが荒いんだから。困ったものだよ。
さて、そろそろお別れだ。
幕は閉ざされ、俺はクラウンの仮面を外す。でも君たちは、その姿を見ることができるかな。
クラウンというのは、道化師だ。
本音を隠すのが仕事だよ。
それを通り越して、君たちは俺たちの本音を見つけ出すことができるかな?……うんうん、楽しみにしているよ。
では諸君、閉幕だ!
また会う日まで、さようなら!



――な、上手くおどけて魅せただろ?