副会長の青春は、恋と少し(?)のポンコツで出来ている。



◇◇

「そんな、ダメです南條先輩……その髪型は校則どころか法に触れま──はっ!」
「どんな夢見てんだよ。出演料取んぞ」

 見覚えがあるようなないような白い天井が目に飛び込んでくる。反射的にがばっと身体を起こせばベッドに寝かされていたと分かり、すぐ横ではパイプ椅子に座った南條先輩がスマホをいじっていた。

「ここは……?」
「保健室。泣き疲れておねんねしちゃった優真くんを俺が運んであげたの」
「……お手数おかけしました……」
 
 スマホに視線を落としたまま片腕を上げて肩に乗せる仕草をして言う南條先輩に(そんな米俵担ぐみたいに僕を運んだんですか!?と問い詰めたくなるのをぐっと堪えて)深々と頭を下げる中、三十分前のことを思い出す。柄にもなく安西会長に甘えてみようとした僕は、当然と言うべきか強く咎められて──……間に入ってくれた南條先輩に連れ出された先で号泣したあと寝落ちしたんだ。

『いい加減にしてくれないか、東山』
『どうやら君は──俺が思うほど思慮深い人間ではなかったようだ』

 次に脳内で自動再生されたのは、今まで見たことのない冷めた声と表情でそう言い放つ彼の人の姿。僕が本当は迂闊でポンコツな──安西会長の本来付き合いたいタイプである“思慮深い”からはだいぶ離れた人間だってことがバレてしまった。それはつまり──

「お前さぁ」

 寝起きでちゃんと回ってないはずの頭が最悪の結論に辿りつくかというところで、見計らったような声がかかる。

「辞退すれば?選挙」
「……辞退……?」
「どいつもこいつも──たかが高校の選挙を重く考え過ぎ」

 突然示された選択肢にぽかんとする僕を置いてきぼりにして、南條先輩は淡々と続ける。

「仮に甘利が生徒会長になったとしても今の生徒会役員が全員退学になるわけじゃない。どうしても風紀委員に好き勝手させたくねぇなら、選挙の辞退と引き換えにお前の副会長続投を甘利に約束させる手もある。間に松原先生と向こうの顧問を入れてな」

 この人にしては珍しく──なんて口にしたらぶっ飛ばされそうだけど──真面目な話をしているはずなのに未だに南條先輩がこちらを見ることはなくて、いっそ不自然に思える。

「そんなになるまで無理することじゃねぇよ。ぶっちゃけ、安西にあんな言い方されてお前もやる気なくなったろ」
「……」

 確信を持った南條先輩の言葉に咄嗟に返せず、膝にかかった布団に視線を落とす。確かに僕はあの時、“安西会長が信じてくれている”という絶対的な支えをなくしてしまった。

「……辞退はしません」

 だけど、それとこれとは話が別だ。遅れて返事をすると視界の隅でスマホをいじる指がぴたりと止まるのが見えた。
 
「このタイミングで僕が辞退すれば生徒会は甘利くんに──風紀委員に全面降伏したと宣言するようなものです。仮に交渉が成功して副会長続行になったとしても意味はないでしょう」

 まぁ祖父江くんに言わせれば僕の認知度は“カス”だから、副会長の肩書なんて今もあってないようなものか……と悲しい感想が過ぎるけど挫けず続ける。

「甘利くんが生徒会長になったら、北川辺先輩は彼を通して卒業後もこの学校の風紀を取り締まるつもりです。バックにSM部も付いているなら、祖父江くんたちにやったように気に入らない生徒の弱みを握って従わせることも簡単なはず」

 そうなったらいよいよ風紀委員による恐怖政治を誰も止められない。生徒会回りの先生方はみんなSNSに疎くてSM部が及ぼす影響にピンと来ておらず、訴えかけても期待は出来ないだろう。

「僕らにとっては“たかが”じゃないんです。今の役員のみんなが安心して生徒会に残れるように──……前任の生徒会長と安西会長、南條先輩や間壁先輩が時間をかけて進めた校則の改定がどうなるのか見届けられるように、僕自身が生徒会長になるしかない。だから、多少無理することになっても選挙は辞退しません」

 なんとなく南條先輩の顔を見れなくて俯いたままでいると、少し間を置いた後にぶっきらぼうに「そうかよ」とだけ言われる。

「……」
「……」
「……な、なんて色々偉そうに言っちゃったけど、今辞退して『生徒会の副会長が逃げたー』って笑われるのも嫌ですし」
「いや笑わせねぇよ」

 それから一分くらいの沈黙が続いていい加減気まずくなって茶化そうとすれば、間髪入れずに打ち返される。
 
「お前を笑う奴らがいたら、俺の俳優人生捨ててでも黙らせてやる」
「……南條先輩……」
「……なにその顔」

 予想外の発言に思わず顔を上げると、南條先輩はスマホからこちらに視線を移し軽く口先を尖らせていた。

「“南條先輩がこんなに優しいなんて意外!”って?」
「い、意外までとは!ただどうして、ここまで僕を気にかけてくれるのかなって。南條先輩が応援演説をやってくれるってだけでありがたいのに……」
「……“どうして”?」

 貴重なお昼休みに校内演説に付き合ってくれたり……安西会長に厳しく追及され呼吸すらままならなくなった僕を非常階段に連れ出してくれたり。“面倒見が良い”の範疇では収まらないそれらに首を傾げると、こちらに向けられたばかりであろうブルーグレーの瞳が揺れた。
 
「お前ならもう分かるんじゃねぇの」

 言うなりゆらりとパイプ椅子から立ち上がると、体育座りの僕がいるベッド上に片膝をついて来る南條先輩。

「逆に、ここまでお前に肩入れしといて“そういうの”以外になんかある?」
 
 南條先輩が喋るほどに物理的な距離が縮まっていく。熱があるんじゃないかと心配になるくらい温度の籠った瞳に、泣きそうに寄せられた眉根。顔の造形は置いておいて、表情(これ)なら作り方を知っている。……かつて僕も、こんな感じで安西会長を見ていた。
 
「なぁ、優真」

 理解した時には南條先輩の顔は眼前まで来ていた。肩より少し短めのブルーバイオレットの毛先が僕の頬をくすぐったその時──咄嗟に両手を伸ばしてその綺麗な顔を挟み込んだ。

「ぶ!?何すんだお前っ」
「ごめんなさい!」
 
 思いの外面白い顔になった南條先輩はそのままに、ガバッと頭を下げる。
 
「実は僕付き──……合ってた人がいて」

 数十分前のやりとりを考えるとどうしても過去形になってしまう。僕と安西会長の関係はあそこで変わってしまって、もうあの人が僕を“恋人”と呼ぶことはないのかもしれない。でも。

「これで終わりだって思いたくないんです。今度こそ甘えないで選挙に勝って、胸を張って会いに行きたい。……100パーセント振られるとは思いますけど、南條先輩の気持ちに応える理由には──先輩?」

 喋ってるうちに力が抜けてもはや両頬に添えるだけになっていた僕の手の上に自らのそこを重ねてきたと思えば、きゅ、と控えめな力が入る。
 
「……アイツはまだ捨てられてないってわけね」
「え?」
「あーあ。優真くんに振られたショックで俺、明日から学校来れねぇかも」

 聞き取れなかった部分はひとりごとだったようだ。隙をついて僕の手を自分の頬から引き離した南條先輩は、ドアを目指して歩き出す。
 
「学校来れない……!?」
「冗談だよばーか。それより元気なら中庭行け、祖父江たちがお前のこと必死に売り込んでる」
「……南條先輩はどこに行くんですか……?」
「今日は疲れたから帰るわ」

 イケメン俳優らしからぬ豪快なあくびを最後に、保健室を出て行く南條先輩。それをただぼんやりと見送った後、僕はようやくベッドから両足を下ろす。
 

 ──このあと投票日の前日まで、南條先輩に会うことはなかった。

 
◇◇

「南條先輩はまだ来ないんですかっ?」

 分厚いカーテンからステージを覗きながら、小川さんが声を荒げる。最近南條先輩に会わないな、いい加減電話してみようかな……なんて思っているうちに投票日が来てしまった。

 ──今日中に、この学校の次の生徒会長が決まる。
 
 左隣に座る祖父江くんに気づかれないように、震える手をぎゅっと握り込む。五時間目の授業がなくなる代わりに生徒たちが体育館に集められている中、一部の役員を除いた僕ら生徒会はこのステージ袖で待機させてもらっていた。
 
「小川、落ち着いて」
「だって……っ」
「気持ちは分かるけど副会長の番はまだなんだから……」

 小川さんを窘める後藤さんの声も心なしか震えている。今は投票を募る前に(もう)けられた最終演説の時間で、甘利くん側の応援演説が始まったところだ。
 
【甘利くんの働きは生徒会側から見てもめざましいもので、彼ならこの学校のために全力を尽くしてくれるだろうと確信しています】

 …… 一年生たちが動揺するのも無理はない。壇上で甘利くんを次の生徒会長にすべく熱弁をふるっているのは、推薦した風紀委員会委員長の北川辺先輩ではなく──現生徒会長である安西 修哉その人なのだから。
 
「生徒会長は応援演説は出来ないって話だったのに……」
「“原則は”、ね」

 演壇(えんだん)に設置されたマイクを通して堂々たる演説を繰り広げる会長から視線を外し、縋るように僕を見る小川さんに応えるため口を開く。

「だけど何かの事情で代役としてやるのならその限りじゃない。過去の選挙でも当時の生徒会長が応援演説の代理を務めた記録が残ってる」
「代役?」
「本来甘利くんの応援演説を務めるはずだった北川辺くんが、先ほど“体調不良”ということで早退したのだよ」

 小川さんの隣で首を傾げる後藤さんに、僕の代わりに答えるのは奥に控えていた間壁先輩だ。
 
「体調不良って……お昼休みに普通に選挙活動してるのを後藤さんと見ました!」
「数時間のうちに急変したとも考えられるけれど……十中八九、北川辺()の作戦のうちだろうね」

 言いながら僕に視線を投げる間壁先輩に小さく頷く。

 ──安西会長は今、早退した北川辺先輩の代役としてあそこに立っている。
 ──選挙に関心がなくても、現役の生徒会長が(すす)める候補者がいればとりあえずそっちに投票しておけば良いと思う生徒は大勢いる。だからあの人は敢えて身を引いたんだ、会長がその思惑に気づいたとしても断れないタイミングを狙って。
 ──北川辺先輩は、本気で今の生徒会を潰すつもりだ。

【──以上をもちまして、甘利くんの応援演説とさせていただきます】

 こちらの戸惑いをよそに、安西会長による応援演説は終わった。そして僕らがいるのと反対側の袖にいて──こちらの人数の倍はいる風紀委員たちの声援を背に、会長と入れ替わりでやってくるのは甘利くんだ。

「──こんにちは!風紀委員会二年生の甘利 旬です!!」

 演壇に着くなりマイクを通さず声を張り上げる甘利くんに、ざわめきと笑いが起きる。
 
「まず始めに……先日の文化祭を思い思いの服装で楽しむ皆さんを見て、これこそこの学校のあるべき姿だと確信いたしました!なのでジブンが生徒会長となった暁には!!服装の規定を文化祭と同じくらいの自由度になるよう働きかけます!!!」

 ──服装の自由度を文化祭の時と同じにする?
 ──校則の改訂で来春から規定が緩くなるけど、それ以上にってこと……?

「えっ、文化祭の時と同じ格好が普段でも出来るってこと!?」
「ほぼ私服OKってことじゃん!」
「もう甘利に投票するしかねぇな!」

 候補者が事前に出す公約にも書かれていなかった内容に僕の頭が追いついた時には、体育館は生徒たちの熱狂に揺れていた。

「文化祭の時は後で散々生徒会(うち)に文句言ってきたのに……。演説用のパフォーマンスですよね、あれ」
「初手で耳触りの良い言葉で興味を引き、いざ生徒会長に選ばれたら適当な理由をつけて反故(ほご)にする──よくある手口だね」

 本気でその公約を実現する気なら選挙活動の時点で発表しているはず。それを誰も口が挟めないこのタイミングに言うということは、後藤さんと間壁先輩が今言った通りなんだろう。敬愛する北川辺先輩の理想を叶えるため、甘利くんも覚悟を決めたんだ。

「──以上、甘利旬でした!!」
「いいぞー甘利!」
「次の生徒会長はお前だーっ」

 他の公約の説明や意気込みを淀みなく述べた甘利くんが最初と同じテンションで締めくくると、彼を称える声が飛ぶ。
 
「祖父江先輩っ、南條先輩にはまだ繋がらないんですか!?」
「さっきから鬼電してるけど出る気配がねぇな」

 ライブ会場で聞くような大歓声がステージに押し寄せる中、カーテンの傍から小川さんが駆けてくる。僕の隣に座る祖父江くんは、ずっと南條先輩に電話をかけていたらしい。

「もうすぐ副会長の番です。……このまま南條先輩が来ないなら……」

 甘利くんの演説が終わり、これから二年生の学年主任がステージに上がり小休止的に体育館でのマナーを説明する。予定ではこれの次に僕の応援演説が控えているんだけど──“南條先輩が来ないなら東山副会長は投票で負ける”。後藤さんはそう言いかけたのを飲み込んだように見えた。

「ややややむを得ない、こうなれば東山くんの応援演説は僕が……」
「間壁先輩が見たことないくらい動揺してる……!」
「ほんとにあがり症なんだ……」
「んな感じで出ても逆効果っすよ」

 震える足で前へ出ようとする間壁先輩を祖父江くんが制する。
 ……ちょうどその時、裏口に繋がる階段の先にある扉がガチャ、と開く音が聞こえた。

「──あれ、もしかして時間ギリ?」

 コツ、コツ……と階段を登る足音と共に近づいてくる、緊張感も何もあったもんじゃない間の抜けた声にその場にいた全員が振り向いて──予想通りの人の予想外の姿に息を飲んだ。
 風紀委員に何度糾弾されても着崩したままだった制服は今は校則通りピシッと着用されており、かろうじて肩に付かないくらいの長さだったブルーバイオレットの髪はうなじが見えるほどばっさり切られ色もスプレーのそれじゃない自然な黒に染められている。──甘利くんに“校則違反の見本”とまで言わしめた時からは想像もつかない程の変貌を遂げた南條先輩が、そこに立っていた。

「南條先輩その髪……何があったんですか!?」
「ほんとに南條先輩?よく似た偽物かも……っ」
「南條くん、まさか君……応援演説のためにそこまで……!」
「はぁ?何勘違いしてんだお前ら、色々飽きたから変えただけだし」

 興奮気味に詰め寄る小川さんたちを鬱陶しそうにスルーしたと思えば、座ったままの僕の前で立ち止まる南條先輩。

「ど?似合う?」
「今までで一番素敵です」
「はっ、やっぱお前趣味悪いわ」
 
 いつも見ていたブルーグレーの瞳もコンタクトか何かだったんだろう。質問に食い気味で答える僕を鼻で笑うのと同時にゆるりと細められたライトブラウンのそれは、滑らかな肌によく馴染んでいた。

「……んな表情(カオ)すんなよ。勝たせてやるからちょっと待ってろ」

 安西会長が応援演説を始めた辺りから同じ顔をしているであろう僕の頭をぽん、と軽く叩くと、狙ったように流れた次の応援演説開始のアナウンスに従うべくすっかり涼しくなったうなじを片手でさすりながら袖から出て行く。

 ──事故や病気じゃない限り、南條先輩なら必ず来てくれるって思ってた。校則を破ることはあっても、約束をすっぽかすような人じゃないから。
 ──……例え相手が、自分を振った奴だとしても。

「あっ、来たっ。南條せんぱーい!」
「えっ、あれ南條 楓!?」
「待って新ビジュ良過ぎなんだけど!!」
 
 演壇に立つ形で予告なく公開された話題の高校生俳優の新ビジュアルに巻き起こる、アリーナ側に集められた生徒──主に女子たちからの悲鳴に近い歓声。それらを「しぃ」と人差し指をくちびるに当てることで瞬時に収めた南條先輩は、マイクの位置を調整すると早速口を開く。

 ──そこからは彼の独壇場だった。
 
 間壁先輩が考えたという原稿を手元に置かず、頭の中に叩き込んだであろう内容はさも自分から湧いて出た言葉のように熱を(まと)って送り出され、『小説とスピーチの区別がついてない』だなんて愚痴るほどだった文章量は時間内に収まるよう自然な速さでうまく調整されている。スピーチライターの存在を知らない生徒たちは普段とのギャップにただただ圧倒され、すべて把握している僕ら生徒会は現役高校生俳優・南條 楓の実力をこれでもかと思い知らされた。

 ──こういう演説は初めてのはずなのに、とてもそうは見えない。
 ──あの落ち着き払って場慣れした感じ、まるで──……。
 
「あの南條先輩、ちょっと安西会長に似てる」
 
 舞台袖にいる役員全員が演壇に釘付けになる中ぽつりと後藤さんが呟いて、誰も否定も肯定もしないまま、マイクを通した南條先輩の声だけが響く。

【──アイツは】

 持ち時間を数分残して原稿の内容が終わり、締めの挨拶に入るかと思いきや(おもむろ)に続けられたそれ。「ここからは彼のアドリブだね」と間壁先輩が補足する。
 
【“優秀”だの“次期生徒会長”だの(たた)えられるたびに微妙な顔をする。『自分はホントはそんな出来た人間じゃない』、『生徒会長なんて荷が重い』って……心の中で大騒ぎしてる】
 
 これまでの演説の流れから考えると“アイツ”とは間違いなく僕のことで、今言われたことは真実なんだけど……まさかの人にバレていたと分かって目を見開く。

【だけど周りだってテキトウに言ってるわけじゃない。どんなに面倒そうな荷物(しごと)も迷わず持ち上げて最後まで運びきる──そんなとこを何度も見てきた。俺のファンが学校に押しかけたら困るから文化祭の一般公開には出るなって風紀委員に圧かけられた時も、真っ先に動いたのはアイツだった】

 ここで大勢に向けて喋っていたはずの南條先輩が、僕の方を見遣る。
 
【……だから俺はお前が好きだ。例えポンコツでもそこが変わらないなら何度でも助けてやれる、他の役員もたぶん似たようなこと思ってる】

 息のしかたを忘れるくらい綺麗で──いつ泣き出してもおかしくないような微笑みだった。うっかり見とれた数秒で、ライトブラウンの瞳は何事もなかったように正面に戻っていく。僕の耳元で「ガチの告白(ヤツ)?」と聞いてくる祖父江くんには何も返せなかった。

【東山 優真は俺が知ってる中で一番強くて、信頼出来る男です。そんなうちの副会長──俺の可愛い後輩をよろしくお願いします。……以上、生徒会広報・南條 楓】

 長い一礼のあと名乗りが終わって、もう一度軽く頭を下げる南條先輩を力強い拍手が包む。ステージにやって来た時はほぼ女子だけが歓迎していたのに対し、今は男子たちも加わって彼を(ねぎら)っているようだった。

「南條先輩、お疲れ様でした」
「すっごく良かったです!」
「まっじで疲れたわ……」

 ステージ袖に戻って来てすぐに声をかける一年生たちに答えながらネクタイを緩め、近くの壁にもたれ掛かる南條先輩。
 
「舞台は作ってやったぞ。──あとはお前がかましてこい、東山」
「……はい!」

 さっき見えたものとは真逆の印象の笑みに強く頷いて、僕の名前を呼ぶアナウンスを合図に椅子から立ち上がる。

 ──全てを決める最後の演説が、始まる。