◇◇
【全校生徒の皆さんおはようございます!いよいよ文化祭二日目、一般公開の日です。本日の服装に関する注意点を生徒会役員の私・小川 真央からご案内させていただきます。最初に──】
「──ねぇ、東山くん……」
よく知った後輩の声がスピーカーから教室に響く中、メイクブラシを手にしたクラスの女子が神妙な面持ちで僕を見つめている。
「ヤバいよこれ……すっごく可愛い!」
「か、可愛い……?」
「みんなこっち来てーっ、東山くんが美少女になった!」
「ちょっ……!?」
小川さんのアナウンスでも言っていた通り、この高校の文化祭二日目。
一般公開を一時間後に控えた教室では出し物の準備が着々と進んでいて、僕・東山 優真もクラスの女子のヘアメイクで着替えを済ませたわけだけど──……。
「ほんとだ、清楚系美少女!」
「まさか東山くんがこんなに女装似合うなんて……」
「今日だけなのもったいないなー、次の授業からこれで出なよ!」
「それはちょっと嫌かな……」
ヘアメイク担当の子の呼びかけで他の女子たちが僕の周りに集まってくる。渡された鏡を見てみれば天井に向かってギュンと上がったまつ毛に自然な陰影の付いた瞼、桜色のチークで染められた頬と同系色のツヤ感のあるリップ──さらに地毛と同じ色で鎖骨くらいまでの長さのサラサラストレートヘアのウィッグによって、普段とはまるで違う僕がそこにいた。
──自分で言うのもアレだけど確かに可愛い……。
メイク中下地やアイシャドウを何種類も使っていたのを思うと自然に見えるように丁寧に作りこんでくれたんだろう。……キュウリの一本漬けとソフトドリンクを売るのにどうして売り子の男子が女装する必要があるのか未だに謎だけど、ここまで来たら深く考えない方が良さそうだ。
──特に何の特徴もない顔がここまでになるなんて、女子のメイク技術が怖くなってくるな……。
「うお、女子のメイク技術怖ぇ」
僕と同じ感想を口にしながらやって来たのは、クラスメイトで午前中の裏方担当である祖父江(そふえ)くんだ。
「もはや別人だな」
「だよね……」
祖父江くんと僕を含めたクラスのみんなは今日はミントグリーン──別名・キュウリの中身色の生地に印刷が入ったクラスで作ったTシャツを着ていて、下は制服のスラックスや学校指定のジャージのズボンなどそれぞれの動きやすいものを選んでるみたいだ。……その中で僕は女子の指示により、学校の備品として(なぜか)保管されていた制服のスカートを履いている。
「スカート動きづらそ」
「下に短パン履いてるから違和感はないんだけどね。……って祖父江くん、今日のピアス新しいやつ?」
「おう。こないだばあちゃんが買ってくれた」
休日に遊ぶ時でも見たことのないピアスに気づいて聞いてみると、菱形のモチーフのそれを軽く手で触りながら祖父江くんは答える。
この学校は普段はピアスなどの装飾品は禁止されている上に制服の着こなしひとつにも細かい指定があって、常に風紀委員が厳しく取り締まっている。昨日の前夜祭でもそれはほぼ変わらず僕らも(クラスTシャツを一枚しか買ってないというのもあって)制服姿でキュウリの一本漬けを売ったわけだけど、一般公開日である今日は“すべての生徒に自分らしく楽しんでほしい”という生徒会長の方針のもと規制がかなり緩くなっていて、“常識の範囲内”でならピアスやヘアアクセサリー、コスプレや今みたいな女装なども許されているのだ。
「いいね、似合ってる」
「さんきゅ。東山は何も付けねぇの?」
「これと言って付けたいものがないんだよね。休日もアクセサリーはしないし……」
「──ただいまー、まだ朝なのに既に廊下暑かったわ……」
──と、家庭科準備室へキュウリを取りに行っていた男子たちがクーラーボックスを抱えて続々と戻ってくる。
「あれっ、なんかすげぇ可愛い子がおる!」
「お、おかえり……」
「その声って……お前東山!?」
クーラーボックスを教室の奥に構えている調理スペースに置くと、メイクしてもらってる時から椅子に座ったままの僕に向かって一斉に駆け寄ってくる男子たち。
「やべぇ間近で見ても可愛い!」
「ヒガ子だ、ヒガ子!」
「祖父江っ、ヒガ子の隣代われ!」
「どうでも良いけどなんで苗字から名付けたし」
「……あのさあ……」
男子たちが興奮気味に囃し立てるのを祖父江くんが冷静に突っ込む中、午後からの売り子担当の田中くんが顔を赤くしながらスマホ片手にこちらへやってくる。
「俺、ほんとにヒガ子タイプなんだ……!ちょっと写真だけ撮らせてくれっ」
「写真……?」
「あと『好きだよ♡』とか言ってくれるとなお嬉しい……!」
「えぇえ、それはちょっと……」
「頼む!午前中の販売担当代わるからさぁ!」
「えっ」
「こんな可愛い子にそんなこと言われたら俺一日中だって働ける……!あ、『好きだよ♡』って言う時は小首を傾げたポーズでお願いします!」
写真を撮りたいと言い出し台詞とポーズのリクエストまでしてきた田中くんに若干引きつつ、思わぬ申し出に目を見開く。
──田中くんが午前中の売り子を代わってくれたら、僕は午後の生徒会の活動まで自由に文化祭を回ることが出来る。
──それはとても魅力的な話だ。安西会長も午前はフリーだって言ってたし、あわよくば生徒会の仕事抜きで一緒に文化祭を回れるかも……?
「──……分かった」
たっぷり一分くらい考えてから、覚悟を決めて大きく頷く僕。
「写真だけね?あと絶対にSNSとかには載せないで」
「ああっ、約束する!」
「じゃあ、言うよ。……す、好きだよ……」
椅子に座ったままの僕の前に跪いて待機する田中くんに向かって、リクエスト通り小首を傾げて台詞を言う。少しの沈黙が流れた後、天を仰ぎながら僕の方にスマホを構えて連写音を響かせる田中くんの頬には一筋の涙が伝っていた。
「……最高」
「泣くほど……?」
「次の生徒会長はお前だ、ヒガ子。今すぐ生徒会入ってきてくれ」
「コイツは最初から生徒会だよ。つかお前、東山にここまでさせたんだから約束は守れよ」
「漢《オトコ》に二言はない!メイク担当ーっ、今から俺を女にしてくれ!!」
「そのセリフだけだと漢なのか違うのか分かんねぇな。……俺トイレ行ってくるわ」
「うん、行ってらっしゃい」
──これで僕は午前中フリーになった……ってことで良いんだよね?
──今から会長に連絡してみようかな。こんな経緯、絶っ対に説明できないけど……。
会長と文化祭を回れることになったとしても『女装姿でクラスの男子に“好きだよ♡”って言ったら代わってもらいました!』とは言わないでおこう。そう心に決めながらメイク担当の子のところへ意気揚々と向かった田中くんから、教室を出ようとしている祖父江くんに視線を移して──……僕は凍り付いた。
「祖父江、すまないが東山を呼んで来てくれ」
扉の前の廊下で祖父江くんの進路を塞ぐように、この学校の生徒会長であり僕の恋人──つまり今一番ここにいて欲しくなった人・安西 修哉先輩が立っているのを見つけてしまったのだ。
──まずいまずいまずい!
僕を探しているらしい安西会長に即、座っていた椅子ごと背を向けなるべくその視界に触れないように縮こまる。
──万が一にも田中くんに『好きだよ♡』って言ってるところを見られてたら浮気を疑われる……!
──ああでも今僕は女装してるわけだし、知らない男女がイチャついてるなーくらいにしか思われてないかも……?
自由になりたかったとはいえ同性の恋人がいる身で他の男子に愛を囁くのはさすがにやり過ぎだと自覚のある僕は、ひとまず他人のフリでやり過ごすことに決める。会長には申し訳ないけど、着替えてから用件を聞きに行こう……!
「あー……いないっすね」
そんな僕のただならぬ様子に何かを察したらしい祖父江くんが会長にそう言ってくれているのが聞こえる。ありがとう祖父江くん、次の生徒会長は君だ。なんてさっきの田中くんと同レベルのことを考えたところで──……。
「そうか。──……彼に甘いのは君も同じなんだな」
あれ、会長の声が妙に近く聞こえるな。……そう思った時にはもう手遅れだった。
「今日はいつもと雰囲気が違うな、東山。クラスの出し物の衣装か?」
「……ひっ……」
頭上にかけられたそれの方へ恐るおそる振り返れば腕組みをしながら冷ややかな目でこちらを見下ろしてくる会長と目が合い、思わず小さな悲鳴が口を突く。
「君のクラスではキュウリと飲み物を売ると聞いていたが……さらに愛を囁いてくれるとは斬新な接客だな」
「あああああの会長、これには事情が……っ」
「午後からの段取りについて伝えておきたいことがある。忙しいところ悪いが付いてきてくれ」
「……はい」
有無を言わせない会長の圧に弁解を諦めた僕はなるべく時間をかけて椅子から立ち上がると、明らかに怒気を孕んだその背中に引き寄せられるように付いて歩く。
「もう出て行くんだな。……幸せになれよ、ヒガ子」
「あの数分の絡みでよく同棲までいった元カレみたいな顔出来んなお前」
扉のすぐ傍ではヘアメイクを施されている田中くんと、僕らの行く末を見守っていた祖父江くんが何やら言葉を交わしていた。
「つーかアイツ女装のまま行ったな。売り子免除になったんだから着替えてけば良かったんに」
◇◇
「──ということで、午後は南條(なんじょう)と合流したら今の順序で見回りを頼む」
「承知しました。ちなみに南條先輩は今どちらに?」
「先ほど、事前に君が確保していたルートから生徒会室に入ったと連絡があった。ファンの目を気にしなければならないとはアイツもすっかり売れっ子だな」
僕のクラスからひとつ上の階にある三年生の教室が並ぶ通路。頼みたい見回りの順路が複雑だから実際に見せながら説明したいという安西会長の案内で段取りを確認し終えたところだ。
「無事に来られたようで良かったです。……それで……あの、会長。さっきのは……」
淡々と進む説明を受けながら田中くんに『好きだよ♡』と言ったことについて弁解出来るタイミングを伺っていた僕は、ワケを話すなら今しかないと勇気を振り絞ってそう切り出す。するとそんな僕の様子を横目に捉えたらしい会長が「ふはっ」と小さな笑い声を漏らした。
「そんなに怯えるな。慌てる君がいじらしくて少しからかいたくなっただけだ」
「え……?」
「男子が数名集まればそういう流れになるのも分かる。……あれを頻繁にやるのであればあまり良い気はしないがな」
「……もう二度としません……」
怒ったように見えたのはからかっていただけだと分かりほっとしたのも束の間、やんわりと釘を刺されて項垂れる僕。と、下を向いたことではらりと顔にかかったウィッグの毛が安西会長の手によって掬い上げられる。
「それから──この方が君の顔がよく見えて俺は好きだ」
「すっ……!?」
掬った髪を耳にかけてくれながらさらりと放たれたそれにガバッと顔を上げれば、教室で見せた冷ややかな目とはまるで違う甘やかなそれと視線がかち合った。
──お付き合いを始めてもう何ヶ月も経つのにこういうのは未だに慣れない!
──って狼狽えてる場合じゃない、僕もたまにはバシッと決めなくちゃ……!
「きゃいちょ……じゃない、会長!良かったらこの後僕と一緒に──」
【──ただいまより文化祭二日目・一般公開が始まります。全校生徒の皆さんは……】
「もうそんな時間か。すまない東山、俺はこの後予定があるのでここで解散にさせてくれ」
第一声を噛んでしまった時点でバシッととはいかなくなってしまったけど、それでも諦めず“一緒に文化祭を回りませんか”と続けようとしたところで軽快なBGMを皮切りに校内を流れた開場のアナウンスと──それに反応して予定があると言った安西会長によって遮られてしまった。
「今何か言おうとしたか?」
「……いえっ、何もありません!」
アナウンスが終わってから僕が何かを言いかけていたことに気づいたらしい会長が聞き返してくれるけど、先約があるなら誘っても断られるだけだと首を振って答える。
──予定って言ってたけど、他の誰かと文化祭を回るってことだよね……男子?女子?大人数なのか二人きりなのか──気になるけどそこまで聞いたら束縛強いと思われちゃうよな……。
──ああだめだ。誘う時は“良かったら”なんてお伺いを立てようとはしたけど普通にこの後会長と二人で文化祭を回るつもりだったから、思い通りにならなくて傷ついてる自分がいる……。
謙虚でいたいと思ってるのに無意識のうちに安西会長の恋人という立場に甘えてたんだな。というか、こうなると僕に残るのは女装姿で田中くんに『好きだよ♡』って言った事実だけになるんだけど……と虚空を見つめる僕の意識を呼び戻すように、会長から「東山」と声がかかる。
「解散する前に君にこれを」
手帳型のスマホケースからビニールで出来た小さな包みを取り出したと思えば、それをこちらへと差し出す安西会長。おずおずと受け取りよく見てみると、細いシルバーのチェーンに同じ色の長方形のパーツが付いた華奢なデザインのブレスレットが入っていた。
「これは……?」
「昨日の前夜祭の時にハンドメイド部の出店で買った」
そう説明しながら眼前に掲げられた会長の左手首には、黒いレザー風の紐で出来たブレスレットが着けられている。
「デザインは違うが同じ製作者のものだそうだ。……これなら一目見ただけでは揃いの物だと分からないだろう」
「それって……」
安西会長のブレスレットには、僕が受け取ったものと同じ色と形のパーツが付いている。けど主張が控えめなので、会長の言う通りパッと見じゃ気づかれなさそうだ。
「つまり今日は学校で……会長とお揃いの物を付けて過ごせる……?」
「そういうことになるな」
うっかり口から出た心の声に頷いて答えながら、会長は僕の手のひらに乗ったままだった包みを一度取ると封を開け、中のブレスレットを左手首に付けてくれた。
「わ、すみません」
「各所に何枚も申請書を出しようやく装飾品解禁の承認を得たんだ。生徒会(おれたち)も楽しまないとな」
「会長、承認もらえるまで毎日あちこち回ってましたもんね……。あっ、これ僕買い取ります!おいくらでしたか?」
「これはそのまま君に贈るよ。来月誕生日だろう?少し早いがプレゼントだと思って受け取ってくれ」
「そういうことなら……ありがとうございます」
「ああ。……ちなみにだが、前に映画館の売店で“偶然”同じボールペンを買ったことがあっただろう。あれは今学校では使ってないのか?」
「あれは……会長とお揃いだと思うともったいなくて、自室に神棚作って祀ってあります!」
「そうか。こういった品はこの先さらに増えるだろうが、君はその度に祀る気か?」
「えっ……!?」
僕が付けているブレスレットが入っていた空の包みをスマホケースにしまいながらからかうような調子でそう言う会長に、なんとなくさまよわせていた左手にぎゅっと力が入る。
──そうか、僕と会長がお付き合いを続けている限りはこの先何度だってそういうチャンスはあるし……今日の午前中、会長が誰と過ごすにしてもそれは変わらないんだ。
「……もう行かなければ。教室まで送れずにすまないな」
「いえっ、それは気にしないでくださいっ。……行ってらっしゃい」
「ああ」
廊下の壁に掛けてある時計を見てそう言う安西会長にブレスレットを着けた方の手を小さく振る。すると会長の方も去り際に左手を軽く上げて応えてくれた。
──二人しか分からないお揃いってなんか良いなぁ!
──って、さっきまで“会長と一緒に文化祭回れない!”っていじけてたのにプレゼントひとつでこんなに浮上するとか、僕も大概チョロいよな……。
「──東山副会長ーっ!」
急ぎ足の安西会長が階段に消えた頃、入れ替わるように反対側からやって来て僕を呼んだのは生徒会一年生役員の小川さんだ。
「小川さん。朝のアナウンス聞いたよ、上手だったね」
「えへへ、ありがとうございます!」
「おはようございます副会長。今日の午前中はクラスの方にいると聞きましたが──わっ、ちょっと小川!」
「見てくださいこれっ、後藤さんとお揃いなんです!」
少し後にやって来た、同じく一年生役員の後藤さんの腕を取って一緒にくるりと僕に背を向け後頭部を指さす小川さん。二人とも同じ形のハーフアップだけど、小川さんは水色、後藤さんはピンクのリボンを髪に編み込んでいる。すごいなこれ、どうやってやったんだろう。
「今朝ちょっと早めに待ち合わせてやったんです!」
「私には似合わないって言ったんですけど、せっかく校則が緩くなるんだからって小川が……」
「小川さんも後藤さんも、お姫様みたいで可愛いよ。リボンの色も二人によく似合ってる」
「そんな……っ」
「お姫様なんて……!」
「──はぁ」
なぜか同じタイミングで俯いて耳まで真っ赤にした二人の傍までやってくるなり大きく息を吐いたのは、生徒会の書記兼会計であり三年生の間壁先輩だ。彼を含めた三人とも左腕に“生徒会”と書かれた青い腕章を付けているので、これから一般公開が始まった校内の見回りに行くんだろう。
「よくそんな歯の浮くような台詞が出てくるものだよ」
「台詞?──あれ間壁先輩、そのピン……」
意味が分からず首を傾げた時、間壁先輩が着ている制服のネクタイにピンが留まっているのが目に入る。小さいけど存在感のあるそれは、うちの学校の指定ではないものだ。
「これかい?先日本を出した際、お祝いにと文芸部の後輩たちがくれた。今は制服を着た時くらいしかタイピンは使わないのでね」
「なるほど……とてもよく似合ってます」
「お世辞でも嬉しいよ。さて君たち、そろそろ見回りに戻るとしよう」
「そうですね。すみません副会長、私たちはここで失礼します」
「うん。午後は僕と南條先輩が代わるから、それまでよろしくね」
「はいっ、任せてください!」
さっき会長が向かった階段の方へ歩いていく三人の背中を見送る。小川さんと後藤さんの髪型は遠目でも目立ってとても華やかに見えた。
──見回りと言えば、風紀委員もそろそろこの辺りに来るはずだ。……“あの人”と鉢合わせる前に早く他の階に──……
「──そこにいるのは東山くんではないか!?」
小川さん達を見送ったばかりだけど僕も同じ方向に行った方が良さそうだと足を踏み出したところで──廊下の端からよく知った声に名前を呼ばれ、その声量に周りの生徒たちの目が一斉にそちらに集まる。
「北川辺先輩……」
「クラスに姿がないと思えばこんなところにいたとはな!」
注がれる視線をものともせず、串に刺されたキュウリの一本漬け片手に悠然とこちらに歩いてきたのは、この学校の風紀委員会委員長の北川辺 銀先輩だ。
「この時間にここにいるということは午前中はフリーなのだろう!?担当の時間でもないのに自主的に見回りとは感心だな!」
「え?いや、ここへは午後の段取りを確認しに来ただけで……っ」
「ちょうど良かった、午前中の見回りを行う風紀委員の人員が足りず困っていたところなので君がいると心強い!」
「え、あの、僕はこれから純粋に文化祭を楽しもうと……っ」
「早速だが少し気になるところがあるので付いてきたまえ!」
「ちょっ、そんな、ああ……っ」
そう捲し立てながらよりにもよってブレスレットを付けてる方の手首を無遠慮に掴む北川辺先輩になすすべなく、僕は引きずられるように連れて行かれるのであった。



