瀬名君とのカフェタイムは少し気を遣ってしまって緊張したけど、楽しかった。
満足した気分で私と瀬名君は喫茶店を出た。
せっかく最高の気分だったのに、そこで思わぬ人と出くわしてしまった。
「あっ」
同じフロアのエスカレーターの近くにある洋食レストランの前に、萌が佇んでいた。
向こうも私に気付いて、驚いた顔になった。
まずい、瀬名君と二人でいるところを見られてしまった。
『あたしが好きなのはねぇ、同じクラスの瀬名文也くんなの』
いつかのお昼休みに、萌が乙女全開の顔でそう言っていたのを思い出して、背中がヒヤリとした。
「も、萌。その、これは……」
梨乃が「瀬名くん、かっこいいよね」と言った時に萌が梨乃に向けた敵意が甦り、私はアタフタとする。
そんな私とは反対に、隣の瀬名君は涼しい顔で「やあ、萌ちゃん」と愛想よく萌に手を挙げて挨拶していた。
萌は瀬名君に笑顔で手を振り返すと、また私に視線を向けた。
萌に睨まれる。
そう思って私は身を固くしたけど、萌は私に敵意を向けたりはしなかった。ただ、無関心な顔で私を見ている。
瀬名君の前だからいい子ぶっているとか。違う、それなら私にも笑顔を向けるに違いない。ああ、相手が私だから、敵扱いされないのだ。
瀬名君は浮ついた噂が多い人だ。ある程度容姿が優れていれば、わりと来るもの拒まずの人だという話も耳にする。私がその基準をぎりぎり満たして、お情けで瀬名君に付き合ってもらっていると、萌はそう思ったのだろう。
萌が虚ろな顔で私を見ている。私は自分に向けられているかどうかもわからないその視線から逃げることができず、ただ立ち尽くしている。
ほんの数秒の沈黙が、どうしようもなく辛かった。
「萌、お待たせ」
男の人の声が萌を呼んだ。萌が弾かれたように背後を振り返る。
洋食レストランから出てきた背の高い男の人が、笑顔で萌に駆け寄っていく。
眼鏡が似合う切れ長の瞳がクールな理知的な顔立ち。
見たことがある。でも、どこで?
考え込んでいる私を見て、萌の顔色がさっと青くなる。
あ、やばい。萌がそんな顔をした瞬間、私は既視感の正体を思い出した。
そうだ、愛海のスマホ。かっこよくて素敵な先輩で大好きなんだよねと、愛海が頬を赤らめながら見せてくれた隠し撮りの写真。
間違いない、彼は愛海の意中の伊達先輩だ。
萌、瀬名君が好きだといっていたのに、どうして伊達先輩と。
ぎょっとする私に、萌は苦い顔をしていた。
「どうした、萌」
伊達先輩が固まっている萌の肩に優しく触れる。その手付きは壊れ物を扱うかのように恭しく、あきらかに彼にとって萌が特別な存在だというのを伝えていた。
萌がぱっと蜂蜜みたいに蕩ける笑顔を浮かべて伊達先輩を見上げる。
「なんでもないでぇす。ランチ、ごちそうさまでした。ありがとうございますぅ」
「どういたしまして。じゃあ行こうか」
「はぁい」
去り際、伊達先輩の腕に自分の腕を絡めた萌が振り返って、私を睨み付けた。
おかげで楽しい気分はすっかり霧消して、私は嫌な気持ちで家に帰った。
満足した気分で私と瀬名君は喫茶店を出た。
せっかく最高の気分だったのに、そこで思わぬ人と出くわしてしまった。
「あっ」
同じフロアのエスカレーターの近くにある洋食レストランの前に、萌が佇んでいた。
向こうも私に気付いて、驚いた顔になった。
まずい、瀬名君と二人でいるところを見られてしまった。
『あたしが好きなのはねぇ、同じクラスの瀬名文也くんなの』
いつかのお昼休みに、萌が乙女全開の顔でそう言っていたのを思い出して、背中がヒヤリとした。
「も、萌。その、これは……」
梨乃が「瀬名くん、かっこいいよね」と言った時に萌が梨乃に向けた敵意が甦り、私はアタフタとする。
そんな私とは反対に、隣の瀬名君は涼しい顔で「やあ、萌ちゃん」と愛想よく萌に手を挙げて挨拶していた。
萌は瀬名君に笑顔で手を振り返すと、また私に視線を向けた。
萌に睨まれる。
そう思って私は身を固くしたけど、萌は私に敵意を向けたりはしなかった。ただ、無関心な顔で私を見ている。
瀬名君の前だからいい子ぶっているとか。違う、それなら私にも笑顔を向けるに違いない。ああ、相手が私だから、敵扱いされないのだ。
瀬名君は浮ついた噂が多い人だ。ある程度容姿が優れていれば、わりと来るもの拒まずの人だという話も耳にする。私がその基準をぎりぎり満たして、お情けで瀬名君に付き合ってもらっていると、萌はそう思ったのだろう。
萌が虚ろな顔で私を見ている。私は自分に向けられているかどうかもわからないその視線から逃げることができず、ただ立ち尽くしている。
ほんの数秒の沈黙が、どうしようもなく辛かった。
「萌、お待たせ」
男の人の声が萌を呼んだ。萌が弾かれたように背後を振り返る。
洋食レストランから出てきた背の高い男の人が、笑顔で萌に駆け寄っていく。
眼鏡が似合う切れ長の瞳がクールな理知的な顔立ち。
見たことがある。でも、どこで?
考え込んでいる私を見て、萌の顔色がさっと青くなる。
あ、やばい。萌がそんな顔をした瞬間、私は既視感の正体を思い出した。
そうだ、愛海のスマホ。かっこよくて素敵な先輩で大好きなんだよねと、愛海が頬を赤らめながら見せてくれた隠し撮りの写真。
間違いない、彼は愛海の意中の伊達先輩だ。
萌、瀬名君が好きだといっていたのに、どうして伊達先輩と。
ぎょっとする私に、萌は苦い顔をしていた。
「どうした、萌」
伊達先輩が固まっている萌の肩に優しく触れる。その手付きは壊れ物を扱うかのように恭しく、あきらかに彼にとって萌が特別な存在だというのを伝えていた。
萌がぱっと蜂蜜みたいに蕩ける笑顔を浮かべて伊達先輩を見上げる。
「なんでもないでぇす。ランチ、ごちそうさまでした。ありがとうございますぅ」
「どういたしまして。じゃあ行こうか」
「はぁい」
去り際、伊達先輩の腕に自分の腕を絡めた萌が振り返って、私を睨み付けた。
おかげで楽しい気分はすっかり霧消して、私は嫌な気持ちで家に帰った。



