部屋に入るなり、茜が人間の姿に変身した。
「やるじゃねぇか美守。頑張ったな」
茜がとびきりの笑顔で頭を撫でてくれた。
「茜がいてくれたからだよ。ありがとう」
「礼を言われるようなことはしてねぇよ」
「名前、呼んでくれたでしょ。すごく、心強かった」
人間の言葉を喋る化け物として追い出されるかもしれないのを覚悟で、茜は母の前だというのに名前を叫んでくれた。私のためなら自己犠牲も厭わない私だけのナイトがいてくれる。そう思えたから、あんなふうに自分の気持ちを母にぶつけられたのだ。
「感謝はいらねぇよ。一宿一飯の恩義ってやつだ」
にっと茜が笑う。
近頃思う。再会した時、茜は助けてもらいにきただなんて言っていたけど、本当はやっぱり恩返しに来てくれたんじゃないだろうか。
茜は頭がすごく切れるし、運動神経もとてもいい。いくら食糧難とは言っても、飢え死にするような弱い狐だとは思えない。
でも指摘したら、茜はきっと「買い被りだ」と言って否定するだろう。私に恩を着せないために。
茜が人間だったらよかったのに。そしたら、私はきっと彼と―…。
ふと浮かんだ想像に私は胸が痛くなった。
違う、私が好きなのは瀬名君だ。慌てて頭の中の想像を掻き消した。
翌朝、母は少しぎくしゃくした態度だった。
「あのさ、お母さん。歌を習いたいって話なんだけど……」
悩みに悩んだ末、私は朝食を食べ終わってから昨日の続きを口にした。でも、母は「学校に遅れるわよ。さっさと用意しなさい」と、拒絶するような態度だった。
母は私の歌手の夢を認めてくれなかった。
正直、悲しい。がんばってみなさいと言って欲しかった。でも、それは贅沢な望みなのかもしれない。
今まで溜めたお小遣いで通えるスクールを探して通う。勉強も今まで以上にちゃんとしながら、歌手を目指す。ダラダラとスマホを見たり、ゲームをしたりしている時間を削れば、歌の練習と勉強両立できるはずだ。
どんなに苦しくてもがんばろう、そう心に決めた。
そんなわけで私の日常は一気に忙しくなった。
充実した毎日を送っていた私に、突然ご褒美が与えられた。
なんと、あの瀬名君とデート(仮)をすることになったのだ。
「やるじゃねぇか美守。頑張ったな」
茜がとびきりの笑顔で頭を撫でてくれた。
「茜がいてくれたからだよ。ありがとう」
「礼を言われるようなことはしてねぇよ」
「名前、呼んでくれたでしょ。すごく、心強かった」
人間の言葉を喋る化け物として追い出されるかもしれないのを覚悟で、茜は母の前だというのに名前を叫んでくれた。私のためなら自己犠牲も厭わない私だけのナイトがいてくれる。そう思えたから、あんなふうに自分の気持ちを母にぶつけられたのだ。
「感謝はいらねぇよ。一宿一飯の恩義ってやつだ」
にっと茜が笑う。
近頃思う。再会した時、茜は助けてもらいにきただなんて言っていたけど、本当はやっぱり恩返しに来てくれたんじゃないだろうか。
茜は頭がすごく切れるし、運動神経もとてもいい。いくら食糧難とは言っても、飢え死にするような弱い狐だとは思えない。
でも指摘したら、茜はきっと「買い被りだ」と言って否定するだろう。私に恩を着せないために。
茜が人間だったらよかったのに。そしたら、私はきっと彼と―…。
ふと浮かんだ想像に私は胸が痛くなった。
違う、私が好きなのは瀬名君だ。慌てて頭の中の想像を掻き消した。
翌朝、母は少しぎくしゃくした態度だった。
「あのさ、お母さん。歌を習いたいって話なんだけど……」
悩みに悩んだ末、私は朝食を食べ終わってから昨日の続きを口にした。でも、母は「学校に遅れるわよ。さっさと用意しなさい」と、拒絶するような態度だった。
母は私の歌手の夢を認めてくれなかった。
正直、悲しい。がんばってみなさいと言って欲しかった。でも、それは贅沢な望みなのかもしれない。
今まで溜めたお小遣いで通えるスクールを探して通う。勉強も今まで以上にちゃんとしながら、歌手を目指す。ダラダラとスマホを見たり、ゲームをしたりしている時間を削れば、歌の練習と勉強両立できるはずだ。
どんなに苦しくてもがんばろう、そう心に決めた。
そんなわけで私の日常は一気に忙しくなった。
充実した毎日を送っていた私に、突然ご褒美が与えられた。
なんと、あの瀬名君とデート(仮)をすることになったのだ。



