狐の恩返し

 部活に入ったこと、母に言い出せずにいた。
 もし報告したら「勉強時間が減るじゃないの」と、文句を言われるのが目に見えていたから。

 それだけじゃない。梨乃が茜に気があって会いたがっていることを、茜に伝えられずにいた。梨乃のがっかりした顔を見て、やっぱり力になってあげようと思っているのに、家に帰って茜の顔を見ると言葉が出てこない。

 「最近そわそわしてるけど、どうしたんだ」

 家に帰るなり茜にたずねられて、私はびくっと肩を飛び跳ねさせる。

 「べ、べつに。そわそわなんてしてないよ」
 「いや、どう見てもしてんだろ。なんだよ、言いたいことがあるんじゃねぇのか?」

 茜の青い瞳がじっと私を見る。
 見透かすような目。思わず視線を逸らす。

 「まあ、話したくねぇならいいがな」

 呆れた顔で茜がフンと鼻を鳴らす。

 「言いたいことがあるなら、さっさと言っちまったほうがいいと思うぜ」
 茜のその忠告はすぐに的中した。